寄稿/投稿
数学の先生の描いた絵画
 柴田瓔子 (36HR)
       中村葉子の感性
    人はよく「自分は理科系なので絵画は不得手だ,これまで50年間絵を描いた事がない、両親の介護をしているので絵を描く時間がない」等と口にするが、本当の才能を持っている人にとってこれらハンディキャップは言い訳にしか過ぎない事が中村葉子の個展を見て良く分る。中村葉子(旧姓鈴木葉子)は同期の鈴木藤男君の従妹だ。子供の頃からピアノ等の習い事より算数が好きで、静高を出て、静大教育学部で数学を専攻、名古屋の小学校で数学の先生をしていた。1990年代後半に両親の介護のため、静岡東草深の実家に戻ってきた。介護の傍ら娘さんのお古の油絵道具を借り. 静南研究所の絵画教室で絵を描き始めた。その彼女がアンドリュー・ワイエスを思わせせる写実主義を描き,この人はどんな感性を持っているのかと見る人の興味を惹き付ける。

  2001年から毎年の様に大賞をとっている。先月静銀ギャラリーで個展を開いたが、作品の題材は子供の頃住んでいた静岡三和地区、中之郷の家族との過去の生活だ。鈴木藤男君の父親は中之郷の旧家の長男、葉子ちゃんの父親は次男だ。藤男君は現在中之郷の古い民家の保存運動をしているという。彼女は写実主義の一派の「スーパーレアリズム」(何でも写真の様に描く)ではないと云う。作品「ある日の午後」は納屋に置き捨てられた古いタタミや自転車が漏れてくる光に浮かび上がり、彼女の記憶の中に刻まれた光と陰の世界を描いていると云う。そういえば、私も頃雨戸の隙間から射し込んでくる朝日や、障子に映る揺れる木々の陰等不思議に思って長い事眺めていた幼児期の記憶が蘇り、昭和の日本人の原風景の様な絵だ。心に深く響く作品だ。

    私の妹摂は小学校一年の時母を亡くし、近所の鈴木葉子ちゃんの家で良く面倒をみて貰っていた。城内小学校,城内中学校、静高と妹と同級生の大人しい葉子ちゃんが、心情がほとばしり出るような作品を描くなんて、驚きを隠し得ない。彼女の今後の作品が楽しみだ。
                   


「ある日の午後」 
キャンバス・油彩  130cm×194cm
第19回富嶽ビエンナーレ展準大賞受賞作



「1956 ともちゃんのタイムトラベル」
キャンバス・油彩 194cm×162cm  
第20回富嶽ビエンナーレ展佳作受賞作



「忘れられていた光と陰」
キャンバス・油彩 162cm×112cm  
18回富嶽ビエンナーレ展入選作

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