ジャーナリストのパソコンノートブック
(115) 中央区のシニアは認知症を防ぐ事が出来るか?
                      
         いったい中央区の老人はどうなっちゃたのだろう? ものすごく元気なお年寄が私の住居の真下のスポーツジム前で朝10時の開館1-?時間前から長い列を作る。ジム側も「1-?時間前から並ばれても、早くご入場出来る訳ではございません.入場は10時からです」と張り紙を出しても、毎朝長い行列ができている.私は16年前に住んでいたこのタワーマンションに戻ってきた.ディズニーランド、成田空港、スカイツリーなど眺望が気分を明るくしてくれる.ある晩成田空港方面に閃光が横に走った。飛行機が墜落したのではないかと空港に電話いれたところ、雷雲が横にたなびいているとほぼ水平に放電する事もある,カミナリは上から下に落ちるだけではないと学習した。ここに戻ってきたもう一つの理由は階下の広いスペースを取ったスポーツジムだ、春には屋外の風呂から隅田川のサクラを見る事ができる.サクラの花びら風呂は東京でもここだけだ.
          暑い戸外で1時間も並んだお年寄りは、開館すると一斉にプールに飛び込み、芋洗い状態となる.身体の部位別(足裏、脛、太もも、腰、背中)水流スパも、ジャグジー、サウナも大混雑、風呂場も同じ設備があり、ここも押し合いへし合い状態。水中ウオーキング,アクアビックス,クロール平泳ぎなど初心者のクラスにも積極的に参加する,とにかく元気だ.ここは会員制プールであるので、好きな時間に利用する事が出来る.私は夜遅く10-11頃風呂代わりに来るが、仕事帰りのビジネスマンが数名アエロバイクや泳いでいるだけ、私がプールを独り占めと云う事もあるので、年配者の午前中の喧噪が信じられない。「暑い中列を作って並ばなくても、そのまま隅田川沿いのテラスを永代橋、清洲橋、新大橋、両国橋、浅草方面と歩いて行けば。川面を渡って来た涼風を楽しめるのに」と云ったところ、友人達に睨まれた.「貴方は実情を知らない、ご自分で散歩してみたら, 早朝から年配者は列を作ってウオーキングしている、銀座通りより混んでいるのよ!」と云われた。10年以上も前、川沿いを散歩していたら、下町のご老人が木遣りの稽古をしておられ、朗々とした唄声が水面を伝わり、素晴らしい音響効果をもたし、毎朝聞くのが楽しみであった。

      私の建物から下の中央大橋(佃と新川を繋ぎ、東京駅八重洲口に通じる)を見下ろすと、橋の真ん中に群衆が見える。人々は棒の様なものを振り回している,竹刀の訓練なのか?この橋が出来た当時、北海道出身のロックグループ若者5人が初めて出すレコードのジャケット撮影の為5人が同時に橋からジャンプした.全員黒革のタイトなジャンパーとパンツのため、水で締まった革で身体の自由が効かず溺れ死んだ.この当時、どういう結果が起きるか十分に頭が働かない、レコード会社のデザイナーや、TV局のプロジューサー等の指示で火薬の爆発や、水難事故などで落とす若者がかなりいた.叉か! と、中央大橋に行ってみると、群衆は100名近くの年配者だ。一眼レフデジカメと三脚と格闘しているので,かなり上級者だ。彼等は中央区のお達者クラブの写真部の参加者で、この橋から、夕方のもやの中で点灯されたばかりのスカイツリーを遠景に。薄水色の永代橋の周辺には蛍光色の電飾で彩られた屋形船を写真に収めようとしている。非常にフォトジェニック(絵になる)風景である.橋の上で撮影場所取りで、チャンバラの様に三脚を振り回している。白髪の女性参加者も三脚を振り回しているが,女性のほうが,プロらしく格好よくみえる。
      ここで私は気がついた.朝から会員制のスポーツジムに長い列を作ったり、 区立のプール,図書館,写真撮影場所取りでも,カラオケでも至る所で年配者で溢れている。高齢者と云う区切りの中に団塊の世代(終戦後の1947-1951年生まれ)の膨張したシニアが加わった為,目立ってしまうのだ。この世代の人々は幼稚園の頃から,競争する事に慣れているし,列を作る事も厭わない。とにかくこの世代は数が多いのでアクティブシニアとして目立つのだ。これは高齢者の都心部への回帰によってもたらされた現象でもある。2000年以降バブルの崩壊で地価が急激に下落した為,都心部でも企業が遊休地や,施設を再開発して,マンションを手頃な値段で提供される様になった。さらに少子高齢化の進展に伴い、核家族として,子供が別世代として自立して,老夫婦世帯だけが多摩ニュータウンなどの郊外から都心回帰を果たし,老夫婦だけで自立した生活をする傾向が顕著である。医療施設,劇場など文化施設、日常品の買物など都心の生活は便利だ.都心回帰したシニアも自立して健康に暮らせる様彼等自身相当の覚悟が出来ている、だから区が催す健康アクティビティには高齢者が殺到する。 きっと高齢者は朝7時の大病院待合室の患者の大群に驚き,5時間待った後の3分間診療で自分自身で健康は自分で守らなくてはと決意を新たにしたにちがいない。

          なにかに憑かれた様に会員制のプールに開場1ー2時間前から並び、早朝の散歩に参加するシニアの行動は認知症に対する彼等の恐怖の裏返しだ。出来るだけ長く健康な状態を維持し、認知症の発症を防ぎ,又は発症年令を先延ばししようとする。今年始め,高齢者が恐れおののくショッキングな数字が厚生省から発表された。65才以上の高齢者のうち認知症の人は2012年時点で462万人に上る事が厚生省の調査で分った.認知症になる可能性がある,軽度認知障害(MCI)の高齢者も400万人いると推計され.65才以上の4人に1人が認知症予備軍となる計算だ.世界でも経験した事のない「認知症患者800万人時代」がやって来る事になる。何も分らない.訳もなく徘徊する.被害妄想に取り憑かれる,そんな人々が町中に溢れる。メディアは20XX年の認知症800万人時代の地獄絵図をおどろおどろしく描いている。それにしても日本の患者数は多すぎないか? 米国のアルツハイマー病協会によると,2025年までにアルツハイマーを患う65才以上のアメリカ人は710万人に達する、米国の人口が3億8千万人と日本の人口1億256万人の3倍もあるのに,アルツハイマー患者は日本より少ない.理由は日本が世界一の長寿国である為だ.7月30日厚生省は日本男性の平均寿命が0.27才伸び,80.4才と80才の大台を初めて超え、香港,アイスランド,スイスに次いで世界4位.同じく世界一長寿の女性(86.6才)と共に日本が世界一の長寿国になった事が鮮明になった.皮肉な事にアルツハイマーの最大のリスク要因は加齢である.
   認知症患者の爆発的増加が引き起こす社会経済的負担は膨大なものとなろうと経済学者は予測する。現在の所,認知症による社会経済的負担は日本のGDPの1%弱であるが,2050年にはGDPの3%にも上る事が予測される.ただでさえ不足している労働人口が,在宅介護を余儀なくされた若者が仕事を辞めて介護する,貧困家庭が増え,消費減少と云う悪循環に陥り,日本経済はさらなる弱弱体化に向う.
          医療経済評価総合研究所の五十嵐中氏によると厚生省統計では 一人当たりの年間医療費は81万円ー152万円であるという。認知症はゆっくりと進行し,治る事もないので,医療費はズルズルとかかり続け,介護費用もあるので,比較的短期間で亡くなるガンなどよりもトータルの金額が高くなる事もあるという。 
      五十嵐氏によると今日,息子、娘が介護したがらないので高齢の夫婦同士で介護する「老-老」介護が話題になっているが,近頃では,介護する側も認知症と云う「認-認」介護も増えてきていると云う.この場合,夫婦とも何も食べないで栄養失調で発見されるなど、悲惨な結末がもたらされたと云う。
 高齢化が急速に進み,徘徊による行方不明もうなぎ上りにふえている。警視尾庁によると認知症で行方不明になった高齢者は昨年9603人に上った。20XX年には1時間に1回の割合で「ネズミ色のセーターをきた80才位のおじいさんが行方不明になっています。見かけたら区役所まで連絡下さいと街頭拡声器で放送される時代が来るとメディアは云う.10年位前静岡市日本平の茶畑の真ん中で美術館をやっている実家で正月を迎えたが,「加藤さんちの80才のおばあちゃんが行方不明になりました,連絡下さい」とか、正月3日間2人の迷子おばあちゃん探しの街頭拡声器放送が続いていた。ついでに我が家の惚け犬チャイ(17才)、見かけたら連絡下さいと拡声器放送してもらったら、農協の玄関で3日間座っていると連絡があった。
        高齢者の徘徊対策の為に,ICタグをキーホールダーとして持たせたり,スリッパや着物に縫い付けたりして所在や徘徊をGPSで探知する方法を取っている介護施設もある.メキシコなどではマイクロチップを人体に埋め込み,GPSで追跡する方法をとっている.マイクロチップ人体埋め込みは韓国などでは仮釈放の犯罪者の体内に埋め込んだり、家畜などにも使うので、人間の尊厳を傷つけると,ICチップの埋め込みを高齢者の徘徊対策に使うのは二の足を踏む国が多い。 舛添東京都知事は自分もかって母親の介護をした経験から,ICチップを埋め込めば必ず徘徊者の所在を?むのに有効だ,ICチップ埋め込み論を主張する。将来高齢者全てにICチップの埋め込みが制度化し、牛や豚など家畜の様に扱われる前に,この世からおさらばしたいものだ.先日徘徊した老人が線路内に入り込み電車を止めた事件があり、家族に多額の賠償要求がなされた。介護施設では、入居者の徘徊を防ぐ為にICタグの取り付けを検討中であるという。

米国ではアルツハイマーの予防法と治療薬の開発に付いて楽観的すぎたと反省している。過去20年間有効な治療薬の承認は一つもなかった.2011年になってやっとオバマ大統領が全米アルツハイマー病プロジェクト法(NAPA)に署名して、予防法と治療法を確立する為の目標が定められた。米国の65才以上のアルツハイマー患者数は2025年には710万人に達する見通しだが、この病気の患者は年令と共に指数関数的に発症率が上昇し、2050年の患者数は1600万人に上り、医療や長期ケア、末期ケアにかかる費用は計1兆2000億ドルにも上る恐れがある、何とか抑制しなければアメリカのメディケア(高齢者医療保険制)とメディケイド」(低所得者医療保険制度)などの医療システムは破綻してしまう.

     最近になって認知症の70%を占めるアルツハイマーの研究が進んできた。残念だがアルツハイマー型認知症を改善し、正常な状態に回復させる薬はない.これまで判明したのは血液中のAB(アミロイドベーター)と云うタンパク質が脳内に過剰に蓄積し、脳細胞にダメージを引き起こし.記憶を司る海馬が小さくなり、物忘れがすすむ 。予防策を取るとアルツハイマー発症が25%抑えられると云う。最近になって、画期的発見があった、それも日本での発見だ.シェスタゾールと云う脳梗塞を防ぐ効果のある既存の薬がアミロイドベーターを血管から排出する効果があり、アルツハイマーの進行を遅らせる事が出来る.シェスタゾールは既に使われている薬なので、副作用は研究済みである。さらに米国ではアルツハイマーは脳の細胞が糖分を取り込めない、糖尿病の様な状態なので、インスリンを鼻で吸引する事で認知機能の低下を抑える事が出来ると認知症治療に使っている.インスリンも新薬でないので、副作用も分っている.新薬開発に10年も待つより、身近な薬の活用で、アルツハイマーの進行を抑える事が出来ると云う。
 認知症は発症を5年遅らせると、患者数は半減するといわれおり社会の仕組みで減らす事もできる。認知症の予防法は脳血管の疾病や、心臓病予防法と同じだ.タバコや飲酒を控える、散歩などの運動をする.物忘れが多くなったなどの初期症状が出た段階で治療を開始するのが良いと云われるが、日本では要介護1の軽い段階で見過ごされる事が多いといわれる。国を挙げて初期段階での治療法の確立が必要だ。(終)


 
    

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