ジャーナリストのパソコンノートブック |
(109) 超高年齢者雇用 |
中高年勤務者の問題を耳にしたのはそんな昔の事ではない,ニート(NEET”not in employment and training”)問題で,終身雇用制度に守られた中高年勤務者の存在が阻害要因になっていると云われた.中高年はお荷物の様に思われれ、厄介者を取り払うごとく,早期退職を迫られた。それが最近になって、手のひらを返す様に,彼等が蓄積した熟練技術と知識が,退職と共に外部に流れ出すのはもったいない,雇用を延長してでも,内部に止め起きたいと云う認識が広まりつつある。 世界的な規模で人口の高齢化が急激に進んでいる。60歳以上が人口の3割を超えているのは日本だけだが,2050年頃にはさらに世界の63カ国が続くと推測される。そして60歳以上の人口が15歳未満を上回る様になる. 人口の構成の変化は社会のあり方を大きく変える. 子供の教育費支出はだいたいGDPの5%ぐらいである。減る一方の子供の数は教師の余剰を起こし,教師の失業と云う影響をもたらす。 急激に伸びた寿命で,退職後人生が長くなり, 年金を用意出来ていない国々は年金受給開始年齢を引き上げ, 支払い金額も減らしている。 EUの65歳以上人口は全体の5分の一から,3分の1にまで増加しており、EUの年金の負担額はGDPの12.5%までも占めるようになっている.イタリアでは年金の給付開始年齢は66歳からになり, 金額も現役時代最後の給料の半分にまで減らされた。イタリアの年金給付額は1970年GDPの5%であったが,現在では15%である。EU内で唯一一桁の失業率を誇る優等生のドイツでも,緊縮財政を固持しているにもかかわらず、年金給付開始を2007年に65歳から67歳に引き上げ,さらに69歳にまで引き上げようと検討している。 これはドイツの現在15−64歳の人口が5400万人から2050年に4100万人に急減する事が予測されているからだ。 ドイツの自動車メーカーBMWは50歳以上の従業員が現在の25%から2020年までに45%に増える事を予測して、高齢勤務者に優しい職場作りを始めた. 2年前つくられた世界で初めての工場の製造ラインのスピードを3割落とす,照明も明るくし,座って作業が出来るイスも用意している。 米国や日本等のOECD先進国では高齢化の準備が全くできていないベビーブーム世代が停年退職を迎やようとしている。第二次世界大戦後に生まれた米国の「ベビーブーム世代」や,日本の「段階の世代」が退職年齢に達し初めた。これらの国々は過去バブルに踊り,無駄使いに走り、2008年の金融不況でより巨額の赤字を背負っている。そこに退職者の長寿が進む一方,高齢者を支える現役世代の減少という人口統計学上の災害と云って良い問題に直面することになった。企業はこれまでの年金を廃止し.個人は無駄使いに走り、不況に備え貯蓄をしてこなかった。一方高齢化はおかまいなく進んでいる。OECDの参加国は1958年には退職してから死ぬまで13年あったが、昨年は19年も長生きしている。OECDの加盟国は現在63歳で退職するが,寿命が延びた為に起きた年金資金不足の埋め合わせをするため,退職年齢を66歳か67歳に引き上げた。裕福なOECD参加国は2000年の年金改革で年金の支払いを20%カットしている。 OECDの34参加国の政府は年金の59%を政府が負担してる。米国では政府の負担は38%であり,ハンガリーでは86%である.もしOECDの国々が年金コストのカットをして来なかったら,これらの国々の政府負債は3倍に跳ね上がっていた事であろうとスタンダード&プアーズは云う,そしてこれらの国の負債は2050年までにジャンク債になっている可能性もあったと云う. 白髪3千畳ではないが中国に関する数字は何でも大きい、12月末に発表された社会白書では、中国の60歳以上の老人人口は2020年に3億4千万人と世界一の老人国。高年齢者急増 (2020に3億4千万人)に伴う推定年金51兆円をどのように支払うかである。中国政府の債務はGDP比20%と少なく見えるが、これには巨額な地方政府の債務や国有企業や銀行の債務、年金の原資はふくまれていない。バークレイズの推計では年金の資金不足はGDPの35%に上るとみられている。実際は資金不足はもっと大きいという研究機関もある。中国も、欧米諸国や日本の様に年金拠出金から年金を支払っている。 労働者個人年金口座の90%が今の退職者への支払い使われている。 解決策の一つとして、一人っ子政策の緩和を考えられているが、出産が増えても、労働力に参加するまでには16年かかるので年金生活者を支えるまでに出生率が急上昇するか分らない。政府は退職年齢の引き上げを考えている。引き上げ案が国民にすんなり受け入れられるかは.疑問だ.実は1990年代の市場改革で、政府は約束した年金は必ず受け取れる、絶対割れない「鉄の茶碗」の様に安定していると約束したためだ。 中国政府の福利厚生政策は信用を失いかけている、疑いを持つ金持ちの中国人は日本等への不動産投資を増やしている。 韓国では年金制度を持たず、息子が親の老後の面倒をみてきた。しかし、息子は都会で、就職し親と一緒には住まない。従って親の面倒を見る義務が無いと年取った親を見放す例が増えてきている。この結果は悲惨だとOECDのりポートはいう。 「シルバー津波」 統計局によると米国では毎日10,000のベビーブーマー世代が65歳をむかえており,経済的理由で退職後の職探しをしている。この状態が2030年まで続くと云う。年によって違うが、求職者は日に13,000人に上ることもあるという. ある採用コンサルタントは職探しに押し掛けるベビーブーマーを「シルバー津波」と呼んでいる.ベビーブーマー世代の退職後の貯蓄は驚く程不十分であるという。2013年の企業年金リサーチ・インスティチュートの「退職後の自信」と云う調査では自宅や年金を除いて用意した貯蓄が25万ドル(2,500万円)以上になるのは、55歳未満の従業員の内たった24%しかなく, 驚くべき事は、調査したグループの36%が貯蓄を10,000ドル(百万円)しか用意してないという結果が出た。ボストンで退職研究センターを運営するアリス・ムネル女史は,この現実を直視してもらう為に、解決のオプションは余りない:1」さらに貧乏になる.2)もっと貯蓄する 3」退職後も働き続けるとアドバイスしていると云う。殆どがオプション3を選ぶと云う。 米国労働統計局によれば昨年55歳から64歳の労働者人口は全体の16%を占め、.65歳以上の労働者は全体の5%である。全体として、米国の労働者の5分に1が 55歳以上である。職種によっては高齢者の応募数が2倍,3倍にも集中する職種もある.事務職等過去の経験が生かされた職種が多い,その他プルーフリーダ(校正),モデルメーカーやパターン メーカー、 郵便の仕分け, 配達等が人気がある。 雇用主の方も高齢者に優しい職場を用意するため、環境を整備する様に努力が求められる。年代間の格差や年齢による差別の解消 ,肉体労働を要求しない,仕事の訓練をする.。 雇用主は高齢労働者の意欲を満たし,やる気を起こさせる、それまでの若者中心の職場から思い切った調整が必要とされる。雇用主も高齢者を雇う事で、高い健康保険、傷害保険を買わなくてはならないのでコスト高を覚悟しなければならない。高齢者に優しい職場作りをするために投資が必要だ。アドバイザーによると、滑りやすい木製、タイル、大理石のフロアーは滑らないコルク製の床に変え、階段には鮮明な色を塗り分ける、通路には物を置かない、照明は明るくする等細かな注文をつける。 高齢の従業員を雇うにあたって、雇用主は、高齢従業員自身が気がついてないかもしれないが、彼等の以前の体力はかなり失われ、筋肉は以前の柔軟性も失っている、そのため動きの範囲が制限されるし、バランス感覚も失われる、思考のプロセスがゆっくりしたものとなり、視力が低下する。このような変化が職場での安全性にインパクトを与えるという。 管理職の中には年上の部下を持つ事に抵抗を感じる人もいる。特に日本の様な終身雇用制で培われた伝統の中では上下関係に敏感だ。日本では「改正高齢者雇用安定法」により支給開始年齢が60歳から段階的に引き上げられることにより60歳定年後継続雇用がされない場合,無収入となるものが生じる可能性が出た.希望者には全員,65歳まで継続雇用する事が企業に義務付けられた。年上の部下を持つ管理職は商品知識とパソコンスキルを持たない年上の部下に対し不満タラタラだ.日本の労働者のうち65歳以降も働けるうちには働きたいと考えている人の割合は37%で、65歳までに引退したいという人は29%である。 定年後も働きたいと考えている者にとってパソコンの習得は必須条件だ. 高齢者は一般的に職場において若い世代と較べ生産的でないと思われてきたが,これは「ノー」である.60歳から74歳の生産性(時間給)は25歳から59歳の平均的労働者より高いとブルッキング・インスティチューは発表した。60歳から−74歳の高齢者の中には博士号を持ったり, 大学卒と教育レベルの高い者が多く, 25− 59歳の若い世代は高校卒の学力であった. 多くの調査で高齢者は勤勉で遅刻もすくないと判明した。 先頃日本政府は平成24年版高齢社会白書を発表した。世界最高の高齢齢化率を持つ日本だ、2012年から65歳になる「段階の世代」に超高齢化社会を先導する役目を期待している。これまで「人生65年」時代を前提として、様々な対応や制度設計がなされてきたが 活躍したり、活躍しようと思っている人を年齢に追って一律に「支えられている」人であると捉え事は、その人達の誇りや尊厳を低下させかねない。20世紀は高齢期への備えとして「人生90年時代」を前提にしたものへ転換させ、全世代が参画させ、豊かな人生を目指す認識が示された。 「人生65歳」ではなく「人生90年時代」と考えると、私にも何か出来る事があるかもしれないと高齢期に向けた準備ができそうだ。 終,柴田 |