ジャーナリストのパソコンノートブック |
(99)フェースブックと子供市場 |
禁断の子供市場に手を付けてしまったフェースブック |
先日、甥の一歳半の娘の遊びの相手をしていたら,幼児は私の携帯,妹の携帯,自分の父親の携帯をいじり回し 短縮ボッタンを押してしまい、相手が電話に出た。驚いた幼児は言葉にならない声で「オーイ」と云った。言葉より早く携帯の使い方を覚えるなんてとんでもない時代が来たな!と云うのが私の感想だ。またタブレットのページを送る手つきは私より上手い。写真やゲームを簡単にアプロードできるので,この子には情報は無制限である。自分のおなじ年頃と較べ何と云う進化だ。私が子供の頃は情報が皆無だった。当時何も読む物がないので、母の主婦の友と云う雑誌の付録の「家庭の医学」が私の愛読書だった。むさぼる様に病気の症状を読み。一番痛いのは「腸捻転」だと覚え、お腹が痛くなる度に「腸捻転」だと騒いで、医者に怒られた。豆腐や魚の買い物で包んであった濡れた新聞紙までむさぼる様に読むなど,情報に飢えていた。私の父は教育には熱心であったが,買ってくれるのは英国のヴィクトリア朝時代の絵本で、英語で書いてあるから私の知識の乾きをうるおしてくれなかった。大人になってロンドンの本屋で父の買ってくれた絵本を見付け,もの凄く懐かしかった。 甥の娘には私が想像も出来ないディジタル人生が待ち受けている。幼稚園や小学校の教科書はタブレットになり、フェースブック等のSNSで同年代の女の子と友達 になり、ゲーム,音楽をダウンロードし,ネットでブレークダンスを覚える。絶え間なく入ってくる子供用の玩具や,お菓子のネット広告の誘惑にさらされる。キッズファッションのネット広告に胸をときめかせるかもしれない。 IT企業にとって子供市場は未開拓の魅力的な市場だ。この子供市場を掘り起こすことでフェースブックは昨年88%の広告収入増を成し遂げた。昨年フェースブックのナスダック市場での新規株式公開は、初値は売り出し価格より11%も低く,損を出した投資家から情報が十分に公開されなかったと訴えられていた。投資家の圧力をはね返す為にザッカーバーグ氏がとった失地回復策はこっそり子供会員を増やし,子供の情報をマーケターに流す事であった。フェースブックはソーシャルゲーム開発会社ZYNGAから Farmville等のゲームの提供を受け,それを無料でダウンロード出来る様にしたことで,子供の人気を煽った。フェースブックの売り上げの37億ドルはソーシャルゲームからである。なんと13歳未満の子供の非公式会員が560万人もいた事がコンシューマーリポートの調査で判明した。マーク・ザッカーバーグーCEOも13歳未満の子供が年齢を偽って非公式登録をしている事を渋々認めた。ザッカーバーグCEOは利用を認めていない年齢制限をフェースブックは緩和する方向で検討をはじめていると語った。「親の監督下で,子供達が一部の機能やサービスに限定してフェースブックを利用出来る事を考えており,具体的には13歳未満のユーザーのアカウントを親のアカウントにリンクし,子供が利用出来るアプリや「友達」となれる相手を親が管理出来る機能等が検討されている。 年齢制限緩和に付いては賛否両方の意見が上がっている。フェースブックには世界で9億5千5百万人の登録者がいる。フェースブックやその他のSNSサイトはCOPPA(Children’sOnline Privacy Protection Act : 児童オンライン・プライバシー保護法)の1998年規制に照らして,13歳未満の子供の利用を認めていない。この法律は子供の個人的情報を広告等に使う事を阻止する為である。大抵の場合,子供にZynga のゲームをしたいとせがまれた両親が子供の年齢を偽って入会手続きしたと思われる。フェースブックも、子供のサイトへの非公式アクセスを認識しており,子供の登録を公式に認める事で管理を強化する方法を検討するしかないと考えている。両親によってはポルノ等の危険なサイトにアクセスするよりは実名登録を要求し,比較的信用のおけるフェースブックを親の目の届く範囲で使わせる方が安全だと云う意見をもつ。 マーケッターにとっては子供の情報は宝の山である。ネット上の広告を見た子供が欲しいと云えば親は無理をしてでも高価な買い物をしてしまうからだ。フェースブックのゲームサイトでは,砂糖を沢山使ったコーンフレークやお菓子の広告が何の制限もなく掲載されている。 子供はプライバシーに無頓着で自分の情報を簡単に人に与えてしまう。米国人女性作家ジュリアン・ホフマン女史は「Pretty Little Things」(いとけなく愛らしき者達よ)と云うソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を舞台にした誘拐殺人事件をテーマにした小説を発表している。米国の行方不明として届けられている未成年者は80万人もいるという。サンフランシスコのバス停に貼られたで行方不明の子供の写真を載せたポスターを見た事があるが,その犠牲者の多さと,子供のあどけなさに心が痛む。この9割が家出だと云うが,SNSサイトで子供になりすまして,忍び寄る大人によって連れ去られたケースも多いという。海外で目につくのは、女の子でも,男の子でも,子供に近づく小児性愛者の多さだ。英国の上流の子供が通うパブリック・スクールの少年聖歌隊の音楽会に招かれた時、天使の様な少年達をうっとりと涙をうかべ眺めている中年の男性客の多さに驚いた。私の友人のガーディアン紙の女性記者は大きな声で「フン、皆ホモばっかり!」とワザと聞こえる様に冷やかしていた。 バリ島の地中海クラブ(クラブ・メッド)で,バケーション村で子供を預かり,プールで遊ばせたり,夕食後のパーティー為に子供達と一緒に仮想の衣装を作る活動がある。1人で参加した背の高いフランス人中年男性がしつこく子供達につきまとっている。私の友人達は子供を見るフランス人中年男性の目付きが異常だ,きもいと騒いでいた。1990年の湾岸戦争時,イラクに在住の日本人家族は人質に取られた。ある母親は娘ではなく,10歳の息子が何度もイラク兵に誘拐されそうになり、男の子をそのような目で見る現地男性の存在に怖くなったと云う。作家のジュリアン・ホフマン女史も「インターネットは狩人に新しい狩猟場を提供した。子供達やティーンエイジャーのネットワーキング・サイトのチャットルームを覗き,フェースブックにアップされた何百万もの子供のプロフィールから獲物の目星をつける。写真の中でニコニコ微笑む犠牲者達はレストランのメニューにある前菜の様に,自分に関する美味しい情報を差し出している」と記している。片方では大人に偽ってフェースブックに登録する子供が560万人もいる。 「米国のITソフト開発者は若く、その多くは自分の子供を持たず、人間関係が苦手,さらに自分たちの手がける製品が,社会的,精神的にどんな影響を与えるか考えていない」とメディア・コモンセンスの創始者ジム・ステイヤー氏は指摘する。 広告収入等と云う商機と引き換えに、無防備な子供をフェースブック上への登録を許し,危険にさらしていると批判する。 アメリカの平均的家庭の夜9時,子供達は家に戻ってきており,リビングルームの両親の近くに静かに座っており,最も安全な時間帯だ。しかし,子供の膝の上にあるラップトップ・パソコン上でまさにこの時インターネット上でプレデター(略奪者)が家庭に侵入しているかもしれないのだ。小さい子供は現実社会ではプレデターに対し、非常に鋭敏な自己防衛メカニズムをもっているが、オンラインゲームではモンスターが身体を痛めつけるとか何の被害を与えないのに慣れっこになってしまい、子供の防衛本能は鈍くなってしまっているとFBIのシンシア・キャレイロ特別監督官は語る。彼女はSNSが性犯罪者へのアクセスを開いてしまうと警告している。 折も折,今年春大流行したソーシャル・ディスカバリーSNSアプリ「スカウト」を利用した子供が,ティーンになりすました成人男性に誘い出され、レイプされた事件が3件起きた。12歳と15歳の少女と13歳の少年だった。「ソーシャル.ディスカバリー(社会的発見)」はフェースブックやLinkedInの個人情報データーにアルゴリズムを応用し、携帯電話のGPS機能を利用して自分がいる場所から徒歩圏内に趣味や好みが似通った人がいる事をスマホで教えてくれる出会い系SNSアプリだ。カフェテリアでコーヒーを待っているとスマホのバイブレーションが鳴り,貴方の隣の又その隣の席の女性が貴方の高校の同級生の妹だとメールが入る。今年3月のテキサスで行われたSXSWのイベントでソーシャル・ディスカバリーが「次の大きなトレンドとなる」と大騒ぎされ,雨後の竹の子の様にプラットフォームが開発され,どのアプリも「未知の人達同士を繋げる,偶然の出会い」を強調している。意識せずに側を通っただけで、これまで知らなかった店からバーゲンの知らせや,クーポン券が届く事もある,実際の行動履歴がインターネットを通じて送受信される訳で,まるでスパイされているようだとネットに寛容な米国人でもプライバシーが商売に侵害されていると敬遠されている。 レイプ事件を起こした「スカウト」は 当初年齢制限が18歳以上であったが,業績不振に陥った時,経営陣は13?17歳向けのサービスを開始したとたん利用者は1カ月100万人も増え,業績は黒字化した。元々このアプリはもっと年齢層の高い若者向けに作られており,アプリの「売り」は恋愛ごっこであった。事件の後ティーン向けサービスは停止された。 コモン・センス・メディアの創設者ジム・ステイヤー氏によると「子供達は家族や学校よりも,メディアに接触している時間が多く,一日平均で8時間も接続しており,フェースブックは計り知れない影響を与えている」。子供達は3つの危険に直面していると云う。 Ⅰ)人間関係 2)注意力と依存性 3)プライバシーである。 1)人間関係について、スタンフォード大学が3500人の8歳からー12歳までの女児を調査した所,ネットを使っている時間が長い子供の方が,全く使っていない子供に較べ,気分障害を持ち,他の子供と摩擦をおこしていると云う結果が出た。健康的な感情の相互作用とは対面して話し合う事だ。他人の感情を読むには,対面して話し合い,良い関係を築こうとするのが一番よい方法である。子供はこのようにして他人に対し,共感とかの感情移入をする事を学ぶと研究者は云う。ネット使用時間が長い程気持ちの落ち込みが大きくなる事も多くの研究で明らかにされた。米国のネット依存症のある大学生は8歳の時から1日6時間?11時間ネットにどっぷり浸かってきた。22歳になるまで実生活の友達はおらず、ネットの中の友達だけで、一番近い友達は最初にメールをくれた人だが,まだ会ってはいないという。 2)注意力と依存性については,携帯端末とソーシャルメディアが普及し,ネット接続が早くなるに従って脅迫神経症や注意欠陥多動性障害(ADHD)になる人が増えてきていると云う。これら症状がインターネット依存症を生むと云う指摘があった。 特にフェースブックは依存症が多いという。米国では来年から精神疾患の診断・統計マニュアルに「インターネット依存症」が始めて取り上げられる。中国では何千万人もの人がネット依存症に陥っていると云う。 3)プライバシー: ユーザーの間で、相互的な接続が進むディジタルの世界に置いて,プライバシーはないがしろにされてきた。政府も規制し切れないでいる。 上記のネット依存症の大学生によるとインターネットは子供が安全性やプライバシーを学ぶ能力,さらに,人間として成長する事を学ぶ能力等全てに悪い影響を及ぼしていると云う。 一方ジム・スティヤ氏もインターネットは子供の社会性,感情,認識能力,発達の過程に悪い影響を及ぼしていると云っている。 この大学生は自分の様な不完全な人間を作り出した罪をネットだけに負わせたくない、両親にも責任があるという。彼の両親は保護者という伝統的な親としての役割を果たしてこなかった。親として,子供をしっかりコントロールしてくれれば良かったのにと文句をいっている。スティア?氏も最終的な責任は保護者にあると述べる。「まずはネット上のルールを学び,子供達と明快で簡単な決まり事を作る。親が手本を示さなければならない。これからの子育てには必要な事で,親に課された宿題だ」と述べる。 一方親は子供が未熟のうちから利用するフェースブックに子供が「電子指紋」をベタベタ残し、将来企業の入社審査を受けるとき、安易に残した投稿が不利になるかもしれないと心配する。英国でアンケートをとった企業経営者の半数はフェースブック上の不利な情報(酒に溺れたエピソード,不法な行為)等を見付けたら採用を見送ると回答している。子供はフェースブック上の大衆の関心を惹くため,又は喜ばせる為に,普段だったら公衆の前で口にしない様な事を口にしたい誘惑にかられるが,それが人生を狂わせることになる。若い時の安易な投稿が切っ掛けで職を失った人は数え切れない程いる。 これからの親はディジタル技術の進歩に遅れない様にしなければならず、子供もしっかり舵を取らなくてはならない。 大変な時代にきたようだ。 、柴田 |