ジャーナリストのパソコンノートブック
(93)男性優位社会の終焉

   最近世界先進国では男児より、女児の誕生を尊ぶ傾向があると学者達はいう。米国ロナルド・エリクソンは DNAの解析により、X染色体とY染色体を振り分け、女性の91%の確率を確立し、男子の場合74%で確立する精子振り分ける手法を開発した生物学者だ。エリクソン医師によると、最近クリニックを訪れる女性の多くが女の赤ん坊を希望すると云う、男子希望の2倍の割合だという。一昔前であったら、母親は「もう男の子が二人いるので、女の子を1人欲しくて」と言い訳がましく頼んできたが,最近ではストレートに第一子は女の子を希望すると云う。エリクソン医師によると男児より女児を求めると云う選択は人類の歴史上初めての現象で、母親は自分の将来を男児ではなく女児に託す事を意味する。 人類の歴史が始まって以来、男の第一子が家族を率いていくのが原則であった。古代ギリシャで男児の跡継ぎをもうけるために男性は左側の睾丸をきつく縛るのが慣わしで、男児をもうける事の出来ない女性は自殺するか、殺された。歴史上長い間、男性は優位に立っていた。しかし、世界的に見て、第一子が男子でなくてはならないと云う時代は終わった。エリクソン医師は,カーボーイハットを被り、TVのマルボロタバコのCMの雰囲気を持った西部の男性優位主義者である。自分の周りを見渡すと、娘は背が高く美しい生物科学者であり、姪はカリフォルニア大学で都市工学を勉強しており,女の子は申し分ないが。孫息子達は女の子を追回し、妊娠させたり、車を大破させたりして、人生破滅の道を歩んでいる。エリクソン医師はある講演で、出来るものなら、性転換して女性になりたいとジョークをとばした。 女性は男性より上手く経済に順応し、大学教育を受け、女性でも宇宙にいける時代が来た。これら女性は男性を埃だらけの西部の田舎に見捨てていくのも当然であろうと語った。同じ様な表現がフランスの社会学者Pierre Bourdieuの2007年の著書「Bachelor's Ball(独身男性だけの葡萄会)」に述べられている。フランスの西南部の田舎町Bearn では長男が先祖代々の土地と家業を継ぐ特権を与えられ、長男としての義務を果たす。しかし引き継いだ土地はかって程の利益を生まない。村の娘達は、田舎暮らしを嫌い、都会での仕事や刺激のある生活に魅せられ,村を去って行く。。若い娘達は村の伝統的な祭りに戻ってくるが、土地を引き継いだ長男という特権を魅力的男と思わず、踊ろうとはしない。男性は結婚不適格者と見なされたのだ。これは、男性が消え行く身分や地位にしがみついて,女性に相手にされず、「独身男性ばかりの葡萄会」を催すという現象を描いている。日本でも、地方都市で家業を継いだ青年達が都会に移りたがる若い娘に見捨てられ、結婚出来ずにいる。町内会とか青年会議所が主催して,都会から女性達を招いて、集団見合いをする等のTV番組は時々放送される。 韓国は世界で一番家父長制が強い国として知られている。男子の跡継ぎをもうける事が出来ないことで、多くの妻達が虐待を受け、まるで下女の様な扱いを強いられた。家族によっては生まれた女の赤ん坊が直ぐ死ぬように呪師に頼む事もあったという。特派員仲間に在日3世の男性がいたが、40才になっても、50歳になっても、毎週末名古屋の実家に戻り、父親のご機嫌を伺わなければならない家父長制を嘆いていた。1970年代から80年代の韓国の産業革命の時代、女性は労働力として組み入れられていった。そして、女性は大都会に移り住み、大学まで行く様になった、女性は産業労働者から、事務職に、さらに専門職にと社会的地位を向上させていった。これによって、韓国の伝統的な秩序が揺らぎ始めた。1990年、韓国の法律は母親に離婚後の子供の養育権を認め、資産の相続を認めるよう改正された。2005年の判例では、子供が母親の姓を名乗る事を許している。1985 2年の国政調査では女性の半分が息子をもうけなければならないと回答しているのに対し、2003年の調査では息子を持ちたいと回答したのは15%に減っている。韓国の男性優位の時代は終わったのであると世界銀行の人口統計学者Monica Das Guputa女史は宣言している。韓国の社会的意識の変化は余りにも早く成し遂げられたので、同じ事が産業化が急速に進んでいるインドや中国でも起きていると考えられる。インドの貧しい地域の女性達は米国企業業務のオフショアリングやアウトソーシング(海外移管、委託)に柔軟に対応して、コールセンターでの英会話の習得は男性よりずっと早い。中国では民間企業の40%は女性起業家によって経営されており、真っ赤なフェラーリは彼女らのステータスシンボルである。
   経済学者の中には女性の方がPostindustrial economy (脱工業化社会経済:工業化社会がさらに発展して、産業構造に於いて情報、知的サービス等を扱う第3次産業中心の経済)に向いていると唱えるグループもいる。これまでの歴史では男性は限られた地球の資源を素早く、腕力を使って勝ち取ってきた、その究極の結果が2008年のウォール街の悲劇だった。一方女性は独り占めせず、上手く皆に供給し、子孫の面倒を良く見てきた、これは女性が柔軟性のある事を証明してきた。
「もし女性の方が新しい時代に適しているとしたら?」 2008のウオール街の大不況で8百万人の職場が失われ、その内4分の3は男性の職場であった。大不況で最大の打撃を受けたのは圧倒的に男性が従事していた職種で、いわゆるマッチョ(男性)だと思われる業種で、建設、製造、高度の財務,金融であった。ある職業は雇用の回復が幾分見込めるが、混乱は長引くと思われる。今のところ正体を現していないが、何か深いところで経済の変革が進行している様に思われる。この動きは少なくても後30年位かかるかもしれない。米国では男性と女性の労働力人口が均衡へと向かっている。女性は大学や職業専門学校で優位を占め、米国の次の10年間に成長が見込める15のカテゴリーのうちの2つはすでに女性によって占められている。
   脱工業化社会経済は男性に冷淡である。今日の社会で最も大事なのはソーシャル・インテリジェンス(複雑な社会を操縦する能力)、オープンな情報伝達、静かに座って、焦点を合わせる能力であるが、これら能力は男性に備わった能力ではない。むしろ女性の能力である。アイスランドは一昨年Johanna Sigurdardottir と云う女性の首相を選出した。彼女は世界で初めてのレスビアンだと公表した国家元首である。彼女は選挙中男性のエリートがアイスランドの銀行制度を破壊した、テストステロン(男性ホルモン)時代を終りにさせるために闘うと公約していた。
    米国の大学、職業専門学校では静かな革命が進行中である。大学教育は経済的成長への玄関口であるし、社会の中上流階級への進出への必須条件である。米国の経済の中核を成す中流階級がこれから先の数十年間女性によって独占されるであろうと云う事だ。修士学課程で60%が女子学生によって占められ、医学や法律では50%が女子学生、M.B.Aは42%が女子学生、もっとも重要なのは女子学生の60%が博士号?これは将来の豊かな生活を確約する学位を取っている。一方男子学生はと云うと、18歳から20歳と大学進学の時期に、テストステロンが暴走したため、女の子を追い掛け回したり、車の事故をおこしたりして留置所送りになり、大学進学どころではなく、高校卒の学歴しか持たない。男子学生がもう少し理性的であれば、必要な教育を受けられるのに、彼等は適応する事に失敗した。
   しかし、低所得層の女性はもはや結婚には縛られない、彼女らは自分で子供を産み、育て、どこに住むかなど彼女自身で決めてきた。良い夫、良い父親は1990年代の不況で絶滅してしまった。結婚していない両親を持つ子供の割合は40%にまで急増している。低所得層の結婚制度の崩壊はいろいろな説がある。シングルマザーに対する社会福祉が行き届いて来たため、昔の様なマッチョな仕事がなくなり、結婚生活を維持出来る程の収入のある男性が激減した。女性側が男性に求める夫としての条件を高く設定しすぎる等である。
    世界の社会人類学者は日本の若い男性の「草食男子」と云う傾向を「結婚制度崩壊の兆候」として見ており、興味ある研究対象だと捉えている。ある学者は草食男子 "herbivores" (草食動物)と云う英語を使っており、英国Economist誌では"grass-eating"(草を食べる)と云う表現を使っている、草食男子は毎晩接待とか付き合いで深酒を飲んで帰ってくるサラリーマンの父親の生活を軽蔑し、ガーデニングやお菓子作りやパーティ等女性的な趣味を持ち、セックスも拒むと説明が加えられてある。
   米国男性にとって経済状態はかって程甘くはない。かって朝起きれば直ぐブルーカラ?のアルバイトの仕事が見付かった。給料の良い職場はこの30年間で失われてしまった。労働組合もある花形職業は鉄鋼会社から、薬品会社へ、さらに情報技術会社と移り変わっている。高校卒の男性の学歴では就職は無理で、大学で学位を取った女性によって占められている。2000年以降米国では6百万人分の製造業の仕事が失われた、これは全労働人口の3分の1である。しかし2000年代初めに「住宅バブル」が起きたために、建築関係の雇用が一時的に増え、製造業の職場の消失と云う深刻な事実を覆い隠した。住宅バブルがはじけた今、建築関係、不動産関係の仕事が全て失われたことが露呈した。
   米国では「女性パワーが企業の業績を伸ばす」とか、「業績の良い会社は能力ある女性をリクルートし、雇用し続ける贅沢が許される」とか、女性の雇用に関する観念がが大きく変化してきている。全米の企業で働く女性の割合は49%ににものぼる。 コロンビア大学とメリーランド大学の合同調査では革新的で、成功している企業は女性社員を昇進させていることが判明した。労働省の統計では、女性は米企業全体の管理職の51.4%を占め、1980年代の26.1%から大躍進を遂げている、会計士では54%,銀行、保険でも50%を女性が占めている。米国の医者の3分の1は女性で、弁護士事務所のアソーシエーツの45%は女性である。実業界では女性を重役に据えないのは"頭脳の損失"だとか、"才能のある人をキープ出来ない"管理職の危機だと云われてしまう。
   Fortune 500 の(フォーチュン誌が年に一回米国の企業500社をリストする)大企業CEOの内女性社長は18人(3.9%)に増えた。Hewllett-Packard社のCarly Fiona,Meg Whiteman e-Bay社Ann Mulcahy とUrsula Burns Xerox社 Indra Nooyi PepsiCo社など米国を代表する大企業の社長に就任している。Carly FionaがFortune 500にリストされた企業の女性CEOに就任した時、彼女の夫Frank Fionaが勤めていたAT&Tを辞めて、妻のキャリアのサポートに回って、当時"househusband "(家庭の主夫)として話題になった。それから9年経った現在、「CEOになった妻」と「家庭の主夫」の構図は珍しいものでなくなった。 米国Census Bureauのデーターでは働いている妻の23%が夫より多く給料を稼いでいると云う。現在の不況で、女性1人に対し男性3人が仕事を失っている。製造業や金融業のレイオフで失業した父親は妻がbreadearnerとして( パン代を稼ぐ,家計を支える)ために働いている間、フルタイムで子供の世話をし、家事をこなす事はことはやむを得ない事になった。このような"At-home-Dad"(家事専業の父親)は急増している。全米で5歳以下の子供の養育をする男性の数は2010年に全体の32%に増え、1988年は19%であった。CEOの妻を持つhousehusband は贅沢な屋敷に住み、ゴルフをしたり,妻の豪華なバケーションに付き合い、家では家政婦や乳母を雇う余裕があり、優雅なご身分の居候だと皮肉られる。 一方失業してat-home- Dad の生活を余儀なくされた夫は 一日中子供の世話と家事で疲れ果て,ここで人類の何千年という歴史上で家庭に閉じ込められ、無料の家事労働を強いられてきた妻と云う存在がいかに報われなく、孤独であったかを初めて気がつく。現在大学で勉強をしている女子学生に卒業後の人生設計を聞いてみると,良い職場でキャリアーを磨き、結婚後も仕事を続けたい、子供が生まれたら、夫に家庭に入って貰い、自分がbreadearnerとなりたいと答えている。多分このような女性は結婚する時、将来子供が出来たら, 相手にhousehusbannd になる様あらかじめ取り決めを結ぶのであろう。 そのときは女性と男性、どちらの仕事を存続優先させるかカップルの間で喧嘩が起きるかもしれないとLynda R. Hirshman は語る、彼女は「家庭の主婦にお金を稼ぐ仕事を勧め、家事の半分は夫に分担して貰う」と云う内容の"Get to Work"(仕事に就こう)と云う本の著者であり、自身も弁護士である。Hirshmanは女性が結婚後も仕事を続けたいなら,停年が近い年取った男性と結婚すべきだ,彼なら家庭に入って家事をしてくれるからとアドバイスする。 いくら仕事のためだとはいえ、大学を卒業したばかりの20才台の女性が、停年間際の60歳の男性と結婚するであろうかと云う疑問が湧いてくる。
   Post Industrial (脱工業化時代)に向けて、米国の母親は次の世代の主役になる女の赤ちゃんをせっせと産もうとしている。

                   
終                     柴田
                  

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