ジャーナリストのパソコンノートブック |
(92)犯罪組織が進出する闇の臓器売買 |
今年4月初旬中国安徽省の17歳の高校生Zeng(鄭)が真新しいiPad 2とiPhoneを抱えて帰宅した。母親はそんなに高いものを買う金をどうして工面したのかしつこく尋ねた。厳しい質問に耐えかねて息子は自分の腎臓の片方を売って金を作ったと告白した。母親は息子の身体に赤い手術痕を見付け、手術した湖南省の警察当局に訴えたと云う短い記事を見付けた。こんな短い記事であったが、高校生が臓器を簡単に売る闇のマーケットが中国に存在するのではないか? しかもインターネットを介しての闇の取引である,物質欲に駆られたかなりの数の若者が存在するのではないか?等と云う疑問が湧いた。 確か、2007年に中国政府は それまで無法状態であった臓器移植を禁止する法令を施行した。それまで中国は法輪功学習者の囚人をドナーとして軍関係の病院で死刑執行後に臓器摘出し,年に2000件から3000件の移植が行われてきた。海外に逃れた法輪功学習者が、カナダ政府、米国政府、さらにWHOに訴え、中国政府に臓器移植禁止法令施行を迫ったと云う経緯がある。 5月初め、この高校生は深?TVのインタビューで「自分は どうしても iPadを手に入れたかったが、お金がなかった。オンライン広告で臓器売買の闇のマーケットがある事を知った。あるブローカーがインターネットでコンタクトをとってきて、湖南省の常州198病院まで来てくれれば。腎臓を20,000元(US$3,500)で買い取ってあげる」と語ったと云う。この高校生に手術を行ったという常州198病院は腎臓移植手術が認可されておらず,病院側は移植手術を行ってはいないと云う。その後の調査で外科医、病院側契約者、ネット上で臓器提供者を募るブローカー、手術用の部屋をリースした関係者が検挙された。 闇ブローカーの1人He Wei は長年ギャンブルによる借金で苦しんできた、そこで仲間とオンラインのチャットルームで臓器の売り手を探し、移植用の手術室をリースしてくれる人を募った。この高校生の腎臓移植手術でブローカーは220,000元を手に入れ,高校生に払った20,000元の残りの200,000元を手術関係者と分配したと云う。このブローカーはインター-ネットで臓器移植希望者が見付かるまで,検査や手術のために若者に宿泊施設を用意しているという。警察は湖南省の首都石家庄の貸家で15名の若者を保護した。闇ブローカ?一味はそれまでに12例の非合法な臓器移植手術を行っていた事が判明した。若者達は腎臓移植で手に入れた資金を多額の借金を返したり、スマートフォンを買ったり、ガールフレンドの堕胎費用に使う積りであったと云う。 ネット上では非難囂々の投稿で溢れていた。「消費財を買うために自分の腎臓を売るなんて、なんていう堕落だ! 現代の若者の道徳は低下している。現代中国で見境のない物質主義が横行している」等何千もの批判がネット上に溢れた。中国共産党機関紙「光明日報」は、「1990年代以降生まれた若者世代は苦労を全く経験しておらず、軽率な行動に出ているようだ。身体を傷つけるのも厭わず,物質主義に走る。今日の社会の欲望は際限がなく、物質への欲望は限りない……. 人々は『技術』の極致を求めてやみくもに競争を繰り広げているが、これは我々を荒廃させる事になる」という社説を掲げている。 中国の保健省の統計では中国で臓器移植を待っている患者は150万人に上ると発表、一方で年に1万件しか臓器移植手術が行われない。この大きなギャップが闇の臓器売買の横行に繋がっているようだ。 私は本誌の2006年12月号で中国の臓器移植の記事を書いた。当時カナダの弁護士や国会議員からなる「法輪功迫害調査連盟」が訪日した折、インタビューしたが、渡された資料が余りにもおぞましくて、自分の書棚に置くのも嫌で処分してしまった。法輪功は気功を使い心身の健康を促進する方法で、7千万人とも1億人ともいう法輪功学習者は6千万人の中国共産党員を凌ぐ。高まる法輪功人気は江沢民主席や中国共産党の警戒心をあおり、当局は「カルト教団」として非合法化して、法輪功学習者を中国から根絶させろと云う命令が下された。 数十万人の法輪功学習者が逮捕され,数百カ所の拘置所、強制労働収容所に拘禁され、囚人が臓器の供給源となった。2000 年から 2005年までに60,000件の臓器移植が行われたと云う。中国の場合、証拠を隠すために臓器を摘出された囚人は焼却処分された。臓器移植は組織的に行われる様になり、移植センターは1999年の22カ所から、2006年の500カ所にふえた。臓器移植は非常に利潤の高いビジネスとなった。移植費用は手術後の免疫抑制剤など輸入に頼って入るため、価格は高い。従って外国からの患者が多い。特に金に糸目をつけない日本人は上客と云われていた。カナダの弁護士や国会議員は日本政府が移植目的の渡航を禁止する様に働きかけていた。当時中国各地の臓器移植センターはネット上で日本語のサイトを開き、国際電話の掛け方まで記してあった。移植希望者は必要なデーターをE-メイル、又はファックスで送り、移植確定までに1-2週間かかり、心臓移植、肺移植は1ヶ月以内にドナー決定が実現可能と記してあった。これは日本人の心臓移植希望者の事情に合わせ、1ヶ月以内に健康な法輪功男性を手術予定日に処刑する事を意味する。当時の臓器センターのホームページには「まだピクピク鼓動している若くて健康な男性の心臓が提供されます」と記してあった。「日本人の患者のために日本語の分るスタッフが付き添い、上海料理は日本人の口に合うと思いますが、日本料理店もあり食事には問題ない」と懇切丁寧に説明してあり、臓器移植が「ビジネス」化している事を伺わせた。 今年四月のサウスチャイナ・モーニングポスト紙によれば闇の臓器売買のネット広告は中国のあらゆる省で見られると云う。闇取引された腎臓の半数は闇ブローカーHe Weiのエージェントによって斡旋されたもので、多くのエージェントが違法臓器移植組織に関わり、一番上に立つ黒幕は個人病院を運営していると云う。 中国が死刑囚をドナーとして移植手術を行っていた2007年まで、 中国への臓器移植ツーリズムを堂々と行ったのはイスラエルであった。イスラエルは他の国と大きな違いがあった。臓器を求め、中国を訪れるイスラエル人にその費用を「民間の保険会社」が支払っていた。海外の臓器移植が保険でカバーされるのはイスラエルだけである。イスラエルの超正当派ラビ(ユダヤ教聖職者)は身体の一部(臓器)を提供する事はユダヤ教の伝統に反すると国内での移植を禁止していた。2008年3月最高齢の(101歳)のラビElyashivは「生きていようと死んでいようと身体の一部を摘出する事は許されない」と公式な見解を述べている。この宗教的教えのためか、患者が脳死判定を受けてから、親族が臓器提供に同意する割合がイスラエルでは低くなっている。高度な教育を受けた740万人の国民と高度な医療レベルを持ちながら、イスラエルのドナーカード保持者はたった12%で、75%のアメリカと較べると際立って低い。国内での公式なルートでの臓器の深刻な不足はイスラエル人を闇市場での臓器売買に向かわせた,そして犯罪組織が全ヨーロッパにはびこる事を許した。過去10年世界で摘発された臓器密売事件の殆どにイスラエルの臓器密売グループが多数暗躍している。典型的な例は、10,000ドルで腎臓を買い、自国内での移植を待ちきれない患者に150,000ドルで売りつける。最も弱い犠牲者は東欧の後進国の貧困者で,モルドヴァ等は臓器密売グループにとって無知なドナーを探すのに絶好の狩り場だという。その後、2008年セルビアから独立したコソボが違法臓器売買の中心地となった。コソボではジョナサン・ラテルEU特別検察官がメディカス・クリニックと云う施設を強制捜査し、医者9人、病院関係者,臓器の売り手を募る斡旋人等が起訴された。「大金を払う」と云う新聞広告でドナーを募る。ラズログというウクライナ人は貧困から抜け出せると、連絡をしてみると、組織の男達に連れられて、国境を越え、知らない地で腎臓の摘出施術を受ける。手術を途中で止めると云う,ひどい暴力を振るわれる。結局、手に入れたのは約束した10,000ドルではなく、7000ドルであったと云う。もし警察に通報したら、家をぶっ壊し、家族を殺すと脅かされた。腎臓摘出の術後手当が思わしくなく当局に訴え出た。警察はラグログの腎臓を買った犯罪組織のリーダーを逮捕した,彼等密売組織を統括するのがラモシェ・ハレルが率いるインスラル人の臓器密売犯罪組織であると云う。 イスラエルに関する違法臓器移植では「ブラジル事件」という大掛かりな違法移植事件が起きた。2010年にNetcare Ltd. と云う南アフリカ最大の病院組織が違法臓器売買で検挙され、7.8百万ランド(848,464ドル)の罰金を課された。この病院は臓器ドナーをブラジル、ルーマニアから募り、合計92回の腎臓移植手術をイスラエルの患者に施したと云う。現在4人の医師が公判中で、ブラジル側ではNetcareのためにドナーを斡旋した12人が逮捕され、15ヶ月から11年の禁固刑に処せられている。キエフで検挙された違法臓器移植に拘った医者は合計40回の臓器摘出手術を行ったと告白した。イスラエル?東欧臓器密売グループの犯罪の魔の手は米国本土にも及んでいる。米国法務省はニューヨーク在住のイスラエル人とエルサレムのサミ?・シェムトープは共謀して腎臓を160,000ドルで米国人に売ろうとして逮捕された。 イスラエルの臓器密売組織の特徴は脅かしと暴力を使う事であるとラテル検察官は語る。そして、ドナーは誰1人として、最初に約束した臓器の販売代金を払ってもらえなかった。イスラエルの患者の移植手術は国外で行うので、患者側の事情、違法移植手術を受け入れてくれる病院や協力してくれる医者の手配、エクアドルの様にドナーもレシピエント(患者)も外国人同士の違法臓器手術に利用されるために外国人の手臓器手術を禁止してしまった為に、ドナーを連れて臓器移植の法律が異なる国から国へと彷徨い歩く,偽のパスポートを使ったり、観光旅行だと目的を偽る。アゼルバイジャンの若者は、行き先も告げられずに、べラル?シュ、ウクライナ等から集められたドナー15人と一緒にオランダの狭い小屋に2週間も閉じ込められ、移植手術の準備が出来るまで待ったという。ロシアでは親に見捨てられた子供達が下水道溝等で暮らし、社会問題化しているが、ロシア.マフィアがホームレスの子供達の臓器に目をつけ、闇市場で儲けようとしている。これは人道上許せないとセント・ピーターズバーグ市の匿名の父親からのネット上に投稿があった。 闇市場での臓器売買、犯罪組織の斡旋ビジネスへの介入等悪くなる一方のイスラエルの評判にイスラエル政府も対策を打ち始めた。イスラエルの根源的な問題は2008年に成立した臓器移植法にある。国内での移植条件を厳格に規制し、イスラエル人が臓器を買う事も売る事も違法だと明記された。移植法の成立以来、国外での違法な手術費用を保険がカバーする事が禁じられた。問題は患者が脳死判定を受けた後、親族が臓器提供に同意するかどうかである。ユダヤ教の超正統派のラビは脳死を認めなかったが、Safed派の主席ラビShmuel Eliyahuは臓器提供を支持する書類に100名もの同僚ラビの署名を集める運動の陣頭指揮を取り始めた。「臓器を提供する事は良い行いである。より多くのユダヤ人が臓器提供のネットワークに加わる事を期待する」と説き始めた。Eliyahuラビは2008年の臓器移植法に決定的な1条項を追加した。それはドナーカード所有者は将来本人が臓器移植が必要になった時、優先的に移植待機リストに入れてもらえるというものだ。この条項は2012年1月1日に施行される予定であったが、申し込みが殺到したため3月31日まで延期された。ドナー登録者数は普通月に3,000-5,000人であったが、締め切りの3月31日直前には4万人以上が押し寄せたと云う。イスラエルでは2010年には730名の患者が腎臓移植を待っていた、2011年には待機者は729名である。 フィリッピンに旅行にいった時、上半身裸で働いている若い労働者の腹から脇の下にむけて50センチ位の傷跡を見る度に、闇の臓器手術で腎臓を日本人の患者に売ったのではないかと心が痛む思いであった。東南アジアで闇の臓器売買のメッカはバングラディッシュである。借金の返済に追われる、貧しい農民は新聞のクラシファイド・アド(三行広告)に目を奪われる、臓器を提供すれば、素晴らしい褒美がもらえると書いてある。ここでの広告はあからさまである、血液型Bの腎臓病患者が危篤に陥っている。この患者はイタリーに住んでいる。もし良心的な人が腎臓を提供してくれれば、イタリーでの市民権と仕事を与えます。3日以内に連絡ください。電話番号XXXXXXX 腎臓を求む、血液型はB+,O+, O- (望むらくは女性のもの)。。。。。。。ドイツ。。。電話番号XXXXXX 腎臓が何処にあるかも分らず、どういう働きをするかも分らない無知なバングラディッシュ人に対し、闇の臓器ブローカーは「人間は2つの腎臓を持っていて、一つの腎臓は「目覚めた状態」だが、2番目の腎臓は一つ目の腎臓の裏側にあり「予備用に休眠状態」であるので、摘出しても大丈夫だと請け合う。医者も外科手術は100%安全だと騙す。適合するか組織検査をして、適合すればドナーは1150ドルを受け取る。斡旋人は旅費や諸経費をドナーからとるので、ドナーは自分の腎臓を売って、半分の500ドル位しか貰わないことになる。ブローカーは臓器提供者と、臓器手術を受ける両方から手数料を稼ぐので、一つの移植手術で5,000ドルもなる儲ける事になる。ヒンズー教の臓器提供者がイスラム教の患者に腎臓を移植する場合、スラム教の教えに従って。提供者は割礼を受けた男性でなくてはならない。そこで慌てて、ヒンズー教臓器提供者に割礼の手術を先に行う、割礼手術の麻酔は臓器提供が済むまでの一時しのぎなので、家に戻ってから、失った腎臓の痛みと割礼の痛みと二重の苦しみに襲われる。バングラディッシュは臓器売買は違法であると云う立場を取っているが、新聞の三行広告欄には「臓器提供を求む」の広告で溢れ返っている。バングラディッシュでは臓器移植手術は臓器提供者は家族に限られるとしているが、裏では闇ブローカーと病院側は臓器の売り手を患者の親族に見せかける証明書を偽造する。 又ある医者は移植手術が合法であるインドの病院で行うので問題ないと答える。バングラディッシュでは金持ちであれば、家族に移植用の臓器提供を頼む様な面倒くさい事は行わない。闇市場で臓器は"商品"の様に手に入れる事ができる。移植手術が終わって支払いを済ませてしまえば、ドナーとの感情的なつながりは切れる。 ドナーが命を救ってくれたのではなく、"買った商品"が命を救ってくれたのである。 6月3日、インド人医師 Amid Kumarが500件もの違法腎臓摘出手術をおこなった嫌疑で滞在先のネパールで逮捕された。新聞の三行広告でバングラディッシュ人、インド人、ネパール人から臓器提供者を募ったと云う。TV報道では,闇の臓器取引が一番多いのがフィリッピンで、年間3000もの腎臓の違法摘出手術が行われていると云う。 WHO(World Health Organization)のアドバイザーのフランシスコ・デルモニコよると、こんなに活発に闇の臓器取引が行われていても、腎臓が欲しくて絶望的になっている患者を救う事は出来ない,絶対的数が足りないのだ。WHOによると、毎年およそ5,000人が世界のブラックマーケットで臓器を売っている。この臓器不足を狙って、これから犯罪組織が大々的に闇市場で進出してくるであろうと推測する。 終 柴田 |
![]() |