ジャーナリストのパソコンノートブック
(87)もういい加減にして!

先月、高校生にカッターナイフの刃を首に突きつけられ、拉致されそうになった。
区営のスポーツセンターで水泳を終えて、駐輪場で自転車を出そうとしているところに、後ろから付いてきた男に羽交い締めにされ,「云う事を聞け,俺に付いてこい」と云われた。まだ明るい見晴らしの良い駐輪場で何が起きたか十分把握出来なかった。後ろの男の顔を見る事も出来ない。私の首の下に回されている手に地理とか数学とか受験参考書が握られている,参考書の間からカッターナイフの刃が覗いていた。 これで,男が高校生か浪人生である事が分り,私に少し精神的余裕が出来た。危機に直面した時、人間は短い間に凄い速度で考えを巡らせる事が出来る。まず第一にスポーツセンターで女性を拉致しようとするのは金目当てではないであろう。ここには家庭の主婦が多く、ジャージの上下だとかカジュアルな格好でママチャリでくる。高級なハンドバッグを持たず,宝石も付けず、大金を携えてこない。金を脅し取るなら,スーパーマーケットの駐車場の方が手っ取り早い。 チカン、性犯罪を目的としても,どうして私の様な年配の女性を狙うのか,この周辺は住宅街、歩いて5分ほどの場所に木場公園がある。そこに辿り着くまでに深川署と云う大きな警察署の前を通らなければならない。私は泳ぐので化粧もしておらず、ジーンズに黒のセーター,紺色のパーカーを着ており、高校生の劣情を刺激する格好をしていない。何故私が?と 納得がいかなかった。この区営のプールは新設で,大きいジャグジーがあるので、パソコンで凝った肩を解しにくる。水中ウォ?キングをしたいのだが、弟が水中ウォ?キングをしている年配者はまるで三途の川を渡っている様で見苦しいと云った言葉が気になって止めた。私はここのジャクジーを利用するのは相撲の地方場所がある時だけと決めている。近所に相撲部屋があり、髷も結えない序の口の力士が2-3人泳ぎにくる。力士二人がジャクジーに入ってくると浴槽の半分近く流れ出てしまう,いい迷惑だ。先月は九州場所があったので、私はジャグジーを独占できた。
   とにかく、首の下にカッターナイフを突きつけている高校生の目的を知りたかった。テンションの高いイカレ男だったら,刺激しない方が良い。私の推測ではこの学生は受験勉強に煮詰まり、エロチックな妄想から,女性を拉致するシミュレーションを立てて,実行に出たのではないかというものだ。こんなポンコツ頭が編み出した稚拙な策にはまるのは真っ平ごめんだ。エロビデオでは女性に刃物を突きつければ、若い女性は、ビビッたり,パニックになり、自分の云うなりになるもと決めつけているのであろう。 高校の体育の先生に教わった護身術で、覚えているのは,男性の脛(弁慶の泣き所)を蹴飛ばすと云うものだ。涙を流すぐらい痛いので、弟などに試しては駄目だと云われたのを覚えている。後ろから抱きつかれているので、私のブーツのかかとで思い切り蹴り上げよう。腕は内側には力が入るが,内側から外に押せば、肘がそれ以上外に曲がらないから簡単に羽交い締めが外れると教わった。その護身術を実行する前に、この高校生と話して、どんな事を企んでいるか探ろうと、わざとドスの効いた声で「馬鹿じゃないの! 80の婆さんを刃物で脅して何の得になるのよ! アンタが笑い者になるだけだよ!」と自分の年齢を大幅に譲歩して80歳と云ってみた。するとこの高校生は腕をパッとをほどいて,私の着ていたパーカーのフードをずらして私の顔を覗き込み,「ア!本当だ!」とぬかした。この言葉が私の怒りの導火線に火をつけた。私はプールのシャワーで濡れた髪の毛が十分に乾ききれず、風邪をひくのが怖くて,フードを被っていたのだ。このおっちょこちょいの高校生が私を勝手に高校か中学の女生徒と間違って,刃物で拉致しようとしたのだ。私が大袈裟に年齢を80歳と云ったら,「ア!本当だ!とぬかした! 重ね重ね無礼だ! 女性はいくら歳を取っても,女だ! 60歳代を80歳代と間違われたら,許しては置けぬ! 「60歳と80歳の女性の違いが分らないの! 私にはシワが全然ないに! 80歳の婆さんだったら皺だらけだよ! 自転車に乗ってプールに来られないよ! 「畜生!馬鹿野郎! ど阿呆!」とありとあらゆる罵詈雑言を発したが、日本語はなんと不便な言葉である,怒りを表したいのに、侮辱する言葉が十分でない。それとも大阪のヤクザの姐さんさんの真似して脅かそうか。 今年の夏、阪神がヤクルトにリーグ優勝を阻まれた時、コテコテ阪神ファンの80歳位の婆さん達二人が「ヤクルトを何とかせにゃアカンな! ヤクルトの小川監督をしばかなあかんな!」 もう一人の老婆も「しばいちゃろ! しばいちゃろ!」と合槌を打つ。よれよれのお婆ちゃん達の凄みのある会話をきいて、「しばくぞ!」と脅しの言葉を覚えた。しかし、慣れない大阪弁はスベリそうである。しかも、大阪弁で凄みのある表現はこれ以外知らない。英語には汚い表現が沢山ある。英国で小さな男の子同士が喧嘩しているのを聞いた事があるが,子供は"Wanker"(自慰野郎)"Fuck", "Mother Fucker"(母親と淫行する息子) 、"Son of Bitch" (雌犬は誰とでもくっ付くので,雌犬の子,売春婦の息子)と汚い言葉を平気で使う。 耳新しい米国の侮蔑語は "Suspended balls" (学術用語でundescended testicles停留睾丸,赤ちゃんの様なチンポコ)であった。 世界で一番侮蔑語が多い国は韓国であると云う。 肉食民族で,感情的な国民である。どのような言葉で日本人を罵っているのであろうか?
    この間抜け高校生は私の怒りの剣幕にたじたじとなり,逃げ出した。以前同じ様な場面に出会った事がある。葉山の海岸で元同僚のリチャードの家でのバーベキューに招かれた。リチャードはハワイから遊びにきていた元AP通信の支局長の奥さんのベッツィ?(80歳)と隣家のジャニス(60歳,外務省嘱託)を「you girls in the same generation」と同年齢に扱った。ジャニスは80歳の女性と一緒にされた事で怒り狂っていた。まるで動物園の檻の中のクマの様に部屋を歩き回っていた.ベッツイーの方はもう一度云ってみてと大喜びしている。当時の私にはリチャード同様、ジャニスがどうしてこんなに怒るのか分らなかったし,老婦人は老婦人だ、どうでも良いと思ったが。自分がその年齢になって、分った。この差は大きい,20歳の女性を40歳として扱うのだから,怒って当然である。私は高校生に年齢を納得されて逆上して、肝心な事を追求し損ねた。女性を羽交い締めして,刃物で脅かすなんて,被害者が女子中高校生だったら,拉致監禁強姦未遂事件と新聞で大騒ぎになる。泥棒目的だったら,強盗未遂になる。このイカレ頭の高校生が「この次は成功させてみせる」と再犯に走る可能性がある。この高校生を累犯者にしない為にも,「チカン」とか「強盗」とか泣き叫び,警察に通報すべきであった。 遅くなったが,スポーツセンターの事務所に事の次第を伝えた。受付の女性は高校生が私の様な年配の女性を刃物で脅し拉致するなんてあり得ないと,何の関心を示さず「ああそうですか」で終わった。警官に訴えても,同じ様な反応がかえってくるであろうと諦めてしまった。不本意ではあるが、泣き寝入りということになる。
   私は若い女性と間違われ,被害に遭う事が多い。私は太めであるので、ぽっちゃり型の女子高生と間違われる、アニメなどでの虐められキャラに近いのかもしれない。5?6年前東京の郊外で,若い男が自転車ですれ違いざま、レンガや、金属棒で若い女性ばかりを殴ると云う事件が続いた.この事件は草加市とか東京の郊外で起きている事件で,被害者は若い女性ばかりであるので、自分とは関係ないと思っていた。その日は会員制のプールからの帰りで,前から自転車ですれ違った若い男に金属棒の様なもので腕をひっぱたかれた。余りの痛さに自転車から転がり落ちた。周りの人は誰も叩かれたところを目撃していない,気ばかりが強い私は、追い掛けようとしたが,痛さで立ち上がれない,右腕は真っ赤に晴れ上がっている。警察に通報する為逃げて去っていく男の特徴を記憶しようとした。しかし、立ち上がろうとして目に入ったのはガラスケースに入ったスポーツニッポン本社のの最終版の掲示板である。そのトップの記事で若い女性が引き続き自転車男の被害に遭っているという記事がデカデカと載っている。もし私が通報したら、スポニチは「60歳のお婆さんも,自転車男の被害に遭う」と年齢を強調した見出しが頭に浮かんだ。この時も被害届を諦めてしまった。この犯罪の最近のバリエーションで自転車に乗った男がウンコの様な臭いものをすれ違った若い女に投げつけたり、洋服になすり付けて行く事件が報告されている。
   こういう事件に巻き込まれる時、高校の時母親になじられた言葉を思い出す。「貴方に隙があるから,男子生徒に付けられるのです.毅然としなさい!」と叱られた。自分はそんなに隙だらけでぼんやりして歩いているとは思えない,今まで、日本でも外国でもスリや強盗に遭ったりした事は一度もないからだ。しかし、電車内のチカンに良く狙われた。私はどうもチカンにとって絶好のターゲットらしい。静岡で無菌培養され、電車、バス通学の経験もなかったので、電車内では隙だらけだったらしい。東京でチカンに遇い,ショックを受けた.混雑した電車内で、新聞に隠した針で胸を刺されたり、襞スカートの襞をカミソリで切られ,タコの足の様なヒラヒラの裾になっていますよと女性から教えられた事もあった。最初に就職した米国ABCTVの米国人支局長に通勤ラッシュでチカンの被害に遭うので、始業時間を遅らして欲しいと頼んだら、私だけ10時半出勤が許された。次の英国ファイナンシャルタイムス東京特派員事務所も通勤時のチカンが怖いと、11時出勤が許された。日本の会社が電話連絡してくると、英国人のボスが電話に出て、柴田瓔子は11時から11時半の間に会社に現れますと応対したという。「アンタは一体何時働くんだ」と日本の会社員から怒鳴られたこともある。
      日本では女性に対する性犯罪に寛容的すぎる。昔はかなりひどい性犯罪でも、「酒の上の事で」と無罪となった。しかし、現在では若い女性がチカンした男性を捕まえ駅員に突き出す程強くなった。時には,チカンに敏感になりすぎたは女性によって誤認逮捕も起こしている。東京で働く外国婦人の中にもかなりチカンに苛立って、ヒステリックになっている女性もいる。フランス人か、ベルギー人か分らないが、フィリップスさんという、若い時はさぞかし美人であったろうと思われるある金髪の女性がいた。ある時、友人の雑誌記者がプレスクラブの受付でコートを預けた。偶然彼の隣に立っていたフィッリプス女史が「チカンだ! この男がお尻を触った」と騒ぎだした。私は二人の真後ろに立っていたので、そんな事はない。私のゲストに対して失礼だと弁明する羽目になった。彼女はチカンに対してノイローゼ状態で、真っ昼間ガラ空きの山手線に乗り込んできて、ハンドバッグをぶんぶん振り回しながら、日本の電車はチカンばかりだからと叫んでいたのを目にした.又、彼女の振り回す紙袋で小さな孫娘の唇が切れたと云う特派員もいた。しかし、長い間チカンを何十年も堂々とやっていたワシントン・ポストの東郷滋彦と云う記者が2006年検挙され、実刑判決が下りた時は溜飲が下がった。チカン犯罪者の多くは普通の市民と変わらない生活をしている。検挙された者の中にも、有職者の割合は7割と高いと云う.周囲から気づかれず、チカンを何十年と繰り返し常習的に行っているのである.彼は元々朝日新聞の政治記者で、祖父は第二次世界大戦時の外務大臣、父親は国連大使と云う家柄であった。1976年東郷はチカンの容疑で朝日新聞をクビになった。当時パーティで会った朝日新聞の社主に、東郷さんは朝日?読売の販売戦争で、読売に事件をデッチ上げられ、犠牲者となって可哀想だと同情したところ。朝日の社主は苦しい胸の内を明かしてくれた。東郷はその頃既にチカン事件を頻繁に起こしていた.年に30回とかの頻度であったと云う。決定的になったのは、国会に見学にきた小学生の女の子に国会内女子トイレで悪戯をした事で逮捕された。 朝日新聞は止むなく彼をクビにした。そこで米国一流紙のワシントン・ポストに記者として雇われた。彼の家系ではなくては取れない様な外交や皇室関係のスクープを数々ものにした。そして何冊化もの書物を大手出版者から発行した。秘書の女性によると、事務所には年がら年中、東郷さんのチカンの被害に遭ったと云う苦情電話があり、それら事件の対処に振り回されたと云う。2006年に再び逮捕されるまで30年間何百回チカンをしたのであろう。逮捕された時は、真っ昼間ガラガラの千代田線で居眠りしている女性の隣に腰掛け、ダスターコートをかけて、いたずらに及んだのを目撃され逮捕された。逮捕されるまでのその一年間だけでも11回チカンの被害届があったと云う。彼の様な人は男性ホルモンの過剰分泌で、性的衝動の抑制が効かない病気であろう。
      海外ではこういう常習的性犯罪者に抗男性ホルモン薬を投与するという. 1960年頃からデンマーク、ノルウェ?、スエーデン、オランダ、ドイツ、スイス、カナダ、米国の8州、アルゼンチンなどがこの化学的去勢の法制化を実施している。デンマークでは1929年にあれをチョン切る去勢手術を開始している。韓国でも2010年6月性犯罪者が19歳以上であれば、常習でも、初犯でも薬物治療を施す法案を可決した。この法案は15年に渡って性衝動を抑える薬を投与する事が出来るとしており、2011年7月施行された.レイプが国技とまで云われる韓国では(日本の10倍以上の件数)性犯罪者の再犯を防止する為に2008年から犯罪者にGPS電子足枷を装着した。2008年装着を命じられたのは53人,2011年11月末までに484人の性犯罪者が装着の対象だが、今年に入り、装着した状態で性犯罪を犯す人が急増しており, 2008年には1件であったのが,今年は装着したまま犯罪に及んだのが14件に上っており、電子足枷の意味がないという。肉食男子の国はすごい。米国でも半数以上の州で、GPS足枷装着を義務付けている。
      米国では1994年ニュージャージー州で、ミーガン・カンカと云う少女が暴行ののち殺害され、被疑者が性犯罪の前歴者であることから「ミーガン法」と云う性犯罪者情報公開法が成立した。性犯罪で有罪になった者がその刑期を終えても、その情報を登録し、一般に公開する制度で州によって差がある。出所(仮釈放)時や転入・転出に際して、周辺住民への告知がおこなわれる.犯罪者達に一生に渡って課される事もあれば、最低10年ほどの期間である事もあり、州や、罪の重さによって異なる。この法律の意図は近所に性犯罪者がいる事を親に知らせる事で子供達を守れるようにすることだ。ミーガン法は「犯罪の前科のある者が個人情報を公開される事で、社会復帰が出来ないし、犯罪の再発防止に一切貢献していないと云う批判もある.
       日本では宮城県と大阪府がGPS足枷装着を検討している.2010年の性犯罪者の4割が3度目以上の性犯罪を重ねていたという.余りに高い再犯率にたいし、GPS足枷などの再犯防止策が取られるのが急務だと云う声が高い。
     年を取ったら、こういう問題とはおさらばだと思っていたら、高校生にカッターナイフで拉致されそうになったり、先日90歳で亡くなった元新聞記者で、評論家(NHKのニュース解説もした)から,バイアグラの記事とカタログを毎日FAXで一年以上送り続けられた。新手のセクシャルハラスメントだ。電子メールなら、送り手の名前で即削除できるが、ファックスは勝手に送られてくるので面倒だ.彼は指が震えてキーが押せないのでインターネットは使えない,ファックスが最新の通信手段だ、この記者はかなり惚けているので文句を云っても効き目がない。ファクス用紙とインク代がもったいないので、ファックスを解約、ファックス無しの生活が一年続いた。これからはインターネットでファックスを送受信する方法に変える積りだ.    
        
      おわり 
 (柴田)

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