ジャーナリストのパソコンノートブック |
(84)「インド代理母出産を頼みにする米ゲイ・カップル」 |
20年前サンフランシスコ空港に降り立ち,友達が指定した待ち合わせ場所、カストロ通りに真すぐ向かった。通りの角でタクシーの運転手さんにスーツケースを降ろしてもらっていると,人々が集まってきて、“Welcome to our World” (我々の世界にようこそ!)と拍手で迎えてくれた。よく観察すると皆ゲイのカップルで,レスビアンのカップルも少しいた。私はあなた達の組合の人間ではないと説明しようとしたら,近くのタイ料理店から友人が駆け付けてきた。彼女は日本の旅行会社の支店で働いて、このゲイのカップルがデモンストレーションするこの通りを観光案内してくれた。ここのタイ料理屋の床から天井までのガラス張りの窓越しに外を通るゲイとレスビアンを見学しながら,食事をした。日本では見かけない光景に圧倒され,何を食べたかも覚えていない。どのカップルも誇示するごとく固く手を結んでいる。別に女装や,性転換した男はいなかった。 米国の同性愛者は長い間社会的抑圧と闘ってきた。1980年代になってやっと社会的に認知され始めたら,今度はHIV エイズ(ヒト免疫不全ウイルス)の蔓延でパニックに襲われた。このウイルスは感染経路に1)性的接触(膣,ペニス,肛門,口腔)によるものと 2)直接血液に接触する者と2通りある。今でも,世界中で毎年500万人感染し,300万人が死亡,累計6千万人が感染したと云う。 当初感染源が特定出来なかったのでホモ特有の伝染病だと社会的偏見が彼等を襲った。このウイルスはアフリカのみどり猿が発生源であると云われている。そしてアフリカの黒人に多い伝染病だ。カリブ海諸国(ドミニカ共和国,ハイチ,ジャマイカ等)からのアフリカ系移民は貧困の為か,幼いうちから息子を街娼として街に立たせた。又ゲイの男達の恋愛の形態:ステディな(定まった)相手を持たず,ゲイバー場等での行きずりの相手と性交渉をもつ,これがエイズの蔓延に拍車をかけた。私が東京のゲイの外国人を観察した結果であるが,彼等はステディな相手と付き合おうとせず、新宿で拾った若い男を取替え引替えしていた。翌日ゲイ同士で,昨夜拾った日本人の男の子は良かったとか噂しているのを耳にした事があった。 その後,ゲイの男達は生活態度を改め,交際相手とステディな関係を結び、カップルとなって、奇妙だとか,異常だとかの社会的偏見と闘った。私がカストロ通りで見たのは,カップルが固く手を結び,自分たちはステディな相手と交際しているとデモンストレーションをしていたのだ。同性愛者の冬の時代に,私がその地に降り立ったので、彼等の組合に加わってくれると勘違いされ,歓迎されたのだ。この20年の間に、ゲイの人達に対する興味本位の見方は薄れ、今年6月ニューヨーク州ではゲイ同士の結婚を合法化する米国で6番目の州となった。又カリフォルニア州では公立の学校でゲイの歴史をキャリキュラムに取り入れる決定をした。 この夏、カストロ通りで20年振りの定点観測をする機会を得た。驚いた事に、赤ん坊を大事に抱きかかえるゲイの父親、幼子を連れて歩くゲイのカップルを多く 目にした事だ。子供を持つゲイカップルは社会的にエリート,格好よいとか,金持ちと見られ、周囲から羨望の目で見られている。ある髭もじゃの筋肉隆々の中年男性が赤ちゃんに?ずりしているのを見た。ストレートのカップルであれ,ゲイのカップルであれ,赤ん坊を褒められる事を嫌がる親はいない。そこで,「可愛い,赤チャン、あなたのお嬢さんですか?」と聞いた。「僕の娘だ。僕のDNAを引き継いでいる」と得意そうに語った。側にいる男性が「僕がこの赤ちゃんの母親です」と名乗った。いくら生殖医学が進んだって,男同士では赤ちゃんを作るのは無理!と私が赤ちゃんとこの母親と名乗る男を疑わしそうに見比べると、「インド女性の卵を貰って、別のインド女性のお腹で育てて貰いました,つまりサロゲートマザ--(代理母出産)制度を利用しました」と告白した。道理で顔つきは白人の父親に似ているが,肌は浅黒い赤ちゃんだ。黒い肌の方が遺伝的に優性なので,浅黒い赤ちゃんが産まれる。米国の同性愛者カップルがインドの女性の卵子と子宮を借りて子供を作る代理出産が急拡大している。 低価格、かつ親権に関する法律が緩やかなので,インドを訪れる依頼者は同性愛カップルの方が子供がいない異姓愛(ストレート)カップルを上回る様になってきている。インドでの代理母出産にかかる費用は米国の3分の1であると云う。 又インドではゲイとか性的志向に基づいた差別はない。インドは医学水準が高い。欧米の一流大学で研鑽を積んだ優秀な医師が沢山在籍しており,最新の医療施設も整っている。 代理母出産には伝統的な方法,つまり子宮機能の無い女性のために,代理母が夫の精子で人工授精,出産すると云うサロゲートマザーと云う方法だ。 2003年向井亜紀、高田延彦夫妻が米国での代理母出産によって得た男児の双子を得た(向井さんはガンで子宮摘出)。双子の男児の出生届を品川区に受理されなかった為,夫妻は処分取り消しを東京家裁に申し出た。2009年に最高裁判所に双子の特別養子縁組を許可した。 代理母出産にはGestational Surrogacyと云う方法がある: 代理母と遺伝的つながりのない受精卵を子宮に入れ,出産する,借り腹制度。 ホストマザー制度である。ゲイのカップルの場合,第三者から提供された卵子(インド女性)と夫の精子を対外受精し,その受精卵の別のインドの女性の子宮に入れ出産する。 それまでは,ゲイのカップルにとって赤ちゃんを持つのはタブーに近かった。姉や妹,身近の女性に卵子を提供してくれと何年も待たされたり、子供を妊娠する為に10ヶ月仕事を休んでくれる様な奇特な米国女性を見つけるのは絶望的だった。ところがインドでは注文すればすぐ見つけてくれる。インドの代理母出産医療施設(私立)はネット等で,「我々のところでは卵子提供者が豊富にいます」とか,「代理母になってくれる女性を大勢準備しています」と云う広告を出している。インドでは代理出産用の施設まで作られ,代理母が相部屋で9ヶ月半暮らしている,食事や健康管理も行われるので、彼女らはその期間,自宅に戻さないと云う(夫との性交を避ける為に)。彼女らが代理母になって得られる収入は通常得られる年収の何倍にも当る。日本の夫婦がインドの代理母の渡す報酬は日本円、60万円程度で,貧しい女性の5-10年分の年収に相当すると云う。ゲイカップルによるとインドのシステムはとてもオープンで,体外受精の全課程を見る事が出来ると云う。子宮に対し一度に5個の胚芽を注入するところを見せてくれた。これは妊娠成功率を高める為だ。米国では一度に2個の胚芽しか注入を許されないが、その過程を見る事は許されない。一回の妊娠に付き,医療費と代理母への報酬込みで約2万ドル(150-160万円)。 米国での代理出産でよく起きる問題 ― 代理母が親権を放棄してくれないケースがしばしばある。 しかし,インドではもっとシンプルだ。この父親の精子を使って体外受精させて産まれたこの赤ちゃんはDNA鑑定で父親のDNAと一致する事が確認されれば,米国のパスポートを所得する事が出来る。2015年までにインドに於ける代理出産の規模は60億ドルに上ると推計されている。 いくら愛し合っているゲイのカップルでも,二人のDNAを同時に受け継ぐ赤ちゃんは持てない。最初の子供が父親のDNAを持っているなら、母親役の男性も自分のDNAを受け継いでくれる赤ん坊が欲しくなる。 再びインドの代理母出産医療施設を訪れ,同じ女性の卵子を提供してもらう例が多いと云う。 インドでは商業的代理出産は2002年から行われているが,今年3月インド政府は急拡大して,制御が効かなく代理母出産ビジネスに法律の網を被せ、整える事にした。インドは安い費用で赤ちゃんを海外のゲイの男性に提供する工場の様になってしまった。インド女性は子供を産む機械として扱われていると批判する意見がある。2002年頃から米国の情報企業,金融会社,通信会社等の大手がデータ処理などのバック・オフィス業務を賃金の安いインドに移した,これをアウトソーシングと云う。生殖ビジネスも貧しいインドの女性の子宮を利用してアウトソーシングしようとしていると云う国際的非難が起きているからだ。インド国内からも,福祉団体が貧しい国に代理出産させるのは人身売買だと糾弾した。 新しい法律は弱い立場のインドの女性を同性愛者が求める商業的代理母出産から守るものであるという。1)シングル・マザーと未婚のカップル(異性同士)は代理母出産を認められるが,西欧の女性は不妊と認められた場合にのみ認められる。2)障害児が産まれた場合、引き取りを拒否した依頼主は起訴される。3)代理母は子供を産んだ瞬間から,全てのクレームを拒む事ができる。4)代理母になれるインドの女性の年齢は21歳から35歳に制限する。代理出産出来る回数は自分の子供の出産を含めて5回までである。胚芽を母体に移すのは1カップルに3回までとするなどである。 この過去10年間、インドと英国との間では代理母出産で大論争が起きた。英国イルフォードのボビー・ベイン(47歳)と妻のニッキは何年も不妊治療をしても子供が出来なかった。まるで英国の代理母出産規制の不備を付く様な形で、インドで卵子を求め,代理母出産を募集して,インド北部グジャラット州の44歳のオバアちゃんに2004年に男子の双子を出産して貰った。 赤ちゃんは英国政府とインド政府の大論争で6ヶ月もインドに止めおかれた。この夫婦は2008年にグジャラットで2番目の女の赤ちゃん,デイジーを代理母出産で授かっている。それ以来英国中の子供のない母親がインドのグジャラット州のクリニックに殺到していると云う。グジャラット州は今や「借り腹妊娠ツーリズムのメッカ」になったと英国の新聞は伝えている。昨年12月には英国の歌手エルトン・ジョンさんと夫のデビッド・ファニッシュが代理母制度によって,息子のザッカリーを授かった。二人はどちらの血縁か知る為にDNA 検査をする事にしたと云う。エルトンは自分の血筋が承け継がれている事を望んでいるとコメントしている。セクシーなプエルトリコ出身の歌手リッキー・マーティンもホモである事をカミングアウトして,代理母制度を利用して,双子の赤ちゃんを授かり,一人で育てている。 米国では,ストレートのカップルの場合,代理母として,同一人種,同一民族,同一国籍の女性を求める為,白人の女性に需要が高まり,白人女性が代理母を勤める場合の契約金は高額である。代理母出産を批判するグループはこの現象が黒人差別を助長すると主張している。白人家族は代理母出産がかなり子供に負担を掛けるのに,肌の色が違う子供にはさらに精神的負担が掛かる。それを防ぐ為に代理母は白人を求めると云う。その為,ウクライナの代理母出産を試す米国人夫婦もいる。ウクライナは伝統的な体外受精法を用いている。人類初の人工授精の赤ちゃんは1978年に英国で誕生した。いわゆる試験管ベービーと云う手法で、成熟した卵子を採取して,特殊な培養液で受精させ,子宮内に戻すと云う体外受精法でルイーズ・ブラウンが誕生した。ルイーズは結婚して二年目の2007年に自然分娩をしている。ウクライナのサロゲートマザー・センター「La Vita Felice」でも,体外受精法で,他人の卵子の提供を受けて、代理母出産を行っていると宣伝している。 一方ゲイのカップルは人種や,肌の色にこだわらない,自分の遺伝子さえ残せれば良い,子供の将来を余り考慮しないで利己的な感じがする。依頼主のゲイの白人にとって、代理母の人種が異なっている方が,女性の子宮を単なる道具として見やすいのだそうだ。ゲイの人達はどこかの国の元厚労大臣ではないが,女性は子供を産む機械と捉えている。インドで高度生殖補助医療規制法案が成立しても,白人の同性愛者が遺伝子を継ぐ子供を残したいと云う欲望をかなえる為に,非白人の女性の子宮が使われると云う現実は変わらないと云われている。ある同性愛者は,インドの規制が厳しくなったら、自分の年取った姉と一緒にグジャラートに行き,代理母出産を依頼するなど、抜け道はあるという。南アフリカは代理母出産を宣伝し始めちた。南アフリカ国民はアパルトヘイト(黒人差別政策)で苦しんできた、米国のゲイも差別されてきたマイノリティだ、だから、保護をして欲しいという身勝手なものだ。 インドの規制法案は代理母出産依頼人の出身国が代理出産を認めると云う証明書の提出を求めており,日本では原則として代理母出産は禁止されており証明書の発行はされず、日本人はインドで依頼出来なくなる事が痛い。日本人の海外での代理母出産は相当数に上り(米国で実施した物だけでも2008年時点で100例にも登っている。2008年以降,インドやタイで代理母出産するケースが増えてきている。これはインドで代理母出産した日本人夫婦が離婚した為,出生した赤ちゃんが無国籍状態になり、夫の実母が男児の特別養子縁組とした例があった。この事件が大きく報道されたお蔭で「安価なアジアでの出産が可能と知られる様になり,2008年以降インドで20組以上、タイで10組以上の夫婦が代理出産を依頼し,計10人の子供が産まれている。インド向け斡旋業者3社とタイ向けの2者が斡旋業務を扱い始めた。米国の代理簿出産費用の3分の1程度で済むと云う。ところが米国の斡旋業者も,このところの円高,ドル安の状況はアメリカでの代理母出産医療負担が2007年―2008年に較べ3割以上割引の状態なので絶好のチャンスだと米国での不妊治療を勧める。日本には子宮障害等のため不妊となっている女性が20万人いると見積もられている。インドやタイで代理母出産をして,代理懐妊を依頼した夫婦と産まれた子供の親子関係を養子縁組,特別養子縁組によって定める事が出来る。日本人の夫婦の場合,遺伝的つながりを求める傾向が強く,米国のゲイのカップルの様にはいかない。 時として米国人の科学至上主義には驚かされる。 私は20年前英国フィナンシャル・タイムスの米国女性の同僚が休みとなると英国人の夫を連れ回し,世界中の婦人科医を訪ね,不妊治療をしていた事を思い出す。夏休みに「今度は英国で開腹手術をして子供が産めるかどうか診てもらう,もし駄目だったら,子供を買ってくる」と宣言した。ある日,その日が勤務初めてと云う秘書の女性が日本航空貨物からの電話を受けた。秘書は「米国特派員女性のご主人は科学者ですか?医者ですか?」と聞いてきた。冷凍保存された航空貨物が届いている。「何か冷凍保存された猿の脳ミソみたい物がコンテナに入っていると云ってますけれど」と云った。そこで秘書の女性に,どんな貨物か,英語のスペルを読み上げてみてと云うと,彼女は「Deep freeze enriched sperm」(冷凍保存された濃縮精子)だとスペルを読み上げた。“Enriched”というから濃縮ウランだとと心配した。秘書の女性は米国女性特派員の不妊治療の事は知らない。 私と秘書の二人は独身女性で,どの位の冷凍温度でコンテナの温度で保存すれば良いか」と云う倉庫会社の質問に悩まされ続けられた。米女性特派員は,そんなに大事な物を送っておきながら,自分はハワイで一週間も休暇を取っている。東京に戻った彼女は,今日は慶応病院でゼット(Z)・プロジェクトに取りかかると云う。その日は彼女の卵子が出てくる日なので,採取して、冷凍から戻した夫の濃縮精子と体外受精させると云う。それから毎日,彼女の卵の顕微鏡写真,受精卵,さらに着床した卵を「私の赤ちゃん」として、男性特派員も含めて全員で見る羽目になり,彼女のゼット・プロジェクトにはうんざりした。「赤ちゃん」の写真はらだの[点(ドット)]である。「かわいい」とコメントしようがない。 今度彼女の娘さんが日本に来る事があったら、「貴方が小さな点(ドット)時,貴方と会った事があるのよ! 冷凍のコンテナで成田空港に付いた時,その通関手続きをしたのは私だったのよ!」と皮肉を云ってやる積りだ。 米国人の生殖において科学盲信に興ざめしたのは米国のTV番組「セックス・アンド・シティ」の主人公のキャリー役を勤める女優サラ・ジェシカ・パーカーが夫の俳優マット・デイモンとの間の子供を自分では産まず,代理母に産んでもらった事だ。子供を産むと体型が崩れるのが怖いと云う身勝手な理由だ。この番組はNYの4人の30代独身女性の話だが。その一人の女性弁護士が,自はもう40歳に近い、自分の卵がまもなく出なくなる、将来子供がほしくなる時のために卵子を凍結保存するエピソードがある。この番組見たゲイの男性が,僕の精子も枯渇しし始めている。今の内に精子を凍結保存しておかないと,代理出産に間に合わないのではと焦りを覚えているとサイトに投書してきた。 この投書に対して,独身キャリアウーマン達が「男どもよ!私達独身女性がタイムリミットの中で、仕事をとるべきか、子供を産むべきかの我々の焦りがやっと分っ 」と投書。 米国キャリアウーマンの中にはノーベル賞をとった優秀な男性の精子を精子バンクから買い、人工授精で妊娠して子供を産み,一人で育ている女性もいる。 野心的な女性はキャリアの上昇期に産休をとる事も出来ずキャリアの頂点に上り詰めた時,50歳を過ぎる。そこで自分の凍結保存して、おいた卵子と精子バンクの優秀な精子と体外授精させ、若くて、健康的なインドのサロゲートマザーの子宮で育んでもらう事が出来ると語っている。ここには母性愛のかけらもない。彼女らの手段を選ばぬエゴイスティック考え方はインドの代理母出産に群がるゲイのカップル同様嫌気をもよおす。 終 (柴田) |
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