ジャーナリストのパソコンノートブック |
(74)想像を楽しむ |
前回イタリア旅行を書いたが,それはギリシャ旅行のついでであった。当時私は妙な仮説に取りつかれており,,それをギリシャで立証する事に夢中になっていた。旧約聖書に予言者モーゼがエジプト脱出時に海が割れ,海底を歩いて渡ったと記してあるが,それはギリシャかイタリアの火山島の大噴火で起きた「大津波の引き潮」であるという仮説だ。さらに大噴火を起した島がそのまま海底に沈み,海底都市アクロポリスがあるかもしれないと想像をどんどん膨らませていた。 子供の頃,「十戒」と云う予言者モーゼの映画を見た。キリスト教徒であったら誰でも知っている旧約聖書の出エジプト記であるが,私が覚えているのは予言者モーゼがユダヤの奴隷を率いてエジプトを逃げる時,迫りくるファラオ(王様)の軍隊を背にに,目の前の海に杖をかざすと,海が左右に割れて海底の道が出来,対岸に渡り切る場面であった。当時ハリウッドではコンピュータ・グラッフィックはまだ使われてない時代だったので,海が二つに割れる場面は紙芝居に近いような稚拙な出来であった事を覚えている。 就職して年に2回ぐらい英国に出掛けるようになり,英国を起点として,他のヨーロッパの国々を旅行した。当時私の働いていたフィナンシャル・タイムス紙は世界の航空会社とコントラディール(Contradeal)という契約を結んでおり,新聞に広告掲載した航空会社から代金をを貰う代りに,飛行機の座席で支払って貰っていた。アンカレッジ経由のロンドン?東京間は日本航空,英国航空,キャセイ・パシフィックが利用出来るが,東京に取材にくる英国人記者に使われてしまう。南回りのシンガポール航空やパキスタン航空はアジアの空港や,中東(ドバイ,バーレーン)など立ち寄る空港が多すぎて時間が掛かり英国人の記者は利用しない。当時体力と時間的余裕はたっぷりあった私は片道40時間掛かろうと,夏休みにタダでいけるならと,パキスタン航空のお世話になった。パキスタン航空機はバーレインに立ち寄り,アラビア半島上空を横切り,次の寄港地イタリアに向った。機内放送でパーサーは今エジプト上空で,間もなくギリシャ,エーゲ海上空に達すると伝えたた。飛行地図をみると,エーゲ海(特にクレタ島)はエジプトのアレクサンドリアの目の前である。この上空から見た風景が私の想像をかき立てた。モーゼが海を二つに割って,対岸に渡る話は,エーゲ海の島かイタリアのポンペイ火山爆発で起きた津波による引き潮ではないか? ポンペイ火山爆発は紀元79年であるので,モーゼの時代のずっと後である。エーゲ海の島の火山噴火による津波に違いない。予言者だとか,宗教家はDoom-sayer (この世の終りを予言する人)と呼ばれ,天変地異を災難の前兆だとかと良く利用する。ノアの箱船だって,古代何処かで起きた大洪水に由来しているのであろう。ノストラダムス大予言はフランスの医者であり占星術師ノストラダムスが1566年に,2012年に地球は滅びると終末予言したが,今のところどこかの星が地球に衝突するという兆はない。この予言はいまだに世界中の怪しげな予言者,宗教家に利用されているようで,米国NASAは毎年地球に大接近する星はないと発表している。ハーレー彗星も,紀元前239年頃バビロニア人の記録に残っている。1700年代英国人エドモンド・ハーレ?がこの星が76年という公転周期がある事を発見,1758年に地球に近付くと予想し,その通りになったので,ハ?レ?彗星と呼ばれる様になった。76年毎に災いの前兆と流言,噂が流れ,不安を煽った。日本でも1911年(明治43年)ハ?レ?彗星の尻尾の部分が地球に降りかかり,一酸化炭素,シアン入り水素ガスの影響を受けるという噂が広まり,有毒ガスマスクが飛ぶ様に売れたと云う。直近のハ?レ?彗星の大接近は1986年であった,次は2061年であるので私には関係ない。 来年こそはエーゲ海の島々の周りの海を潜って海底都市を探そう,火山爆発が起きた,サントリーニ島に行こうと決心した。その翌年夏,ロンドンの空港に降り立った私が持ち込んだ荷物は税関の係官の予想を超えた物であった。ピンクのスーツケース中にはシュノーケルと足ヒレ,5kgのウエイトのベルトだけしか入っていなかったからである。彼等がいちゃもんを付けようとしたグッチだとか,プラダなどのブランド品は一切入っていなかった。係官はこの冷夏の英国で何をする気だと聞いてきた。 英国海軍のあるポーツマス港辺でスパイ活動をする気かもしれないなんて仲間と話している。そこでこの後ギリシャに行く積もりだと説明したが,ギリシャへの航空券をまだ買ってなかったので余計怪しまれた。 ギリシャでエーゲ海の島々をクルーズする豪華客船に乗り,クレタ島,次にロドス島,隣国トルコの町,ミコノス島,サントリーニ島の順に廻り,昼間は島に上陸,観光して,夜は停泊した船で夕食会,パーティ,就寝という5日間であった。客は退職した米国人が多く,夫の寡婦年金で旅行している米国のおばーちゃん達一行が私に付きまとってくる。白髪をグリーンや紫に染めている騒がしい米国婦人達を振り切って,私は秘密のミッションのため別行動した。各々の島の周囲の海を潜ってみた。潜水で1人で潜るのはタブーである,必ずバディと云うもう一人と一緒に行動しなければならない。潜水で初心者なのに,火山噴火で古代都市が沈んでいるという仮説で頭が一杯の私は一人で潜ってしまった。ミコノス島やサントリーニ島の海中には神殿の円柱や,彫刻してある巨大な石柱がゴロゴロしている。ミコノスはギリシャ神話の中心地だ,隣のディロス島(無人)はゼウスが妃に子供を出産させる為に用意した島といわれ,遺跡がそのままのこっている。生まれた子供が双児でアポロ(男)とアルテミス(女)であり,ギリシャ神話がこの辺で誕生した訳が分る気がする。紺碧の空,真っ青な海,白い花崗岩の建物,そこにいるだけで神々の国にいる気分になる。潜水で疲れて,海岸で休んでいると,丘の上の白い建物全てが夕日で黄金色の染まり,天国に来てしまったようであった。すると丘の上から美しい青年達十数人が白い階段を降りてきた。全員肩から白い布を斜に掛けた古代ギリシャ人の格好である。陽にやけた肌,太陽で晒された金髪が,光り輝いていた。古代ギリシャ劇でも始まるのかと見とれていた。彼等が私の側を通った時私は見てしまった! 男同士ペアーになって,しっかりと手を握りあっている。「ああ!ギリシャの神々は同性愛者だったのか!」と危うく思ってしまうところであった。30年前でもミコノス島は世界中から同性愛者が集まる島として有名で,今では同性愛の男性達だけのがビーチがあるという。またミコノス島はギリシャで一番俗化した島で,ヌーディストだけのビーチもある。 サントリーニは島の半分が火山爆発で吹っ飛んだような絶壁で,島の頂上が火山噴火でカルデラ状になっており,そこにイアの町がある。やはり白壁の建物,教会,風車などがエーゲ海で一番美しい島だ。最近では日本女性が結婚式を挙げたがる一番人気の島だ。船でこの島に着くと頂上までの絶壁に作られた石段をロバの背にゆられてジグザグと上って行かなくてはならない。島の男は痩せたロバにムチをふるう,ロバが可哀想だがこれしか手段がない。図体の大きな英国の老婦人が自分は動物愛護主義者だ,こんな残酷な事をする事は出来ない,自分で歩くとヒステリックに叫び,ロバから降りてしまった。この石段は何十年とロバが落した糞で(特にエサの麦ワラがそのまま出てしまうので)滑りやすい。英国婦人はたちまち足を滑らせ,足の骨を折った。ここでは上にも下にも身動きが取れない。ロバ使いは2頭のロバを並べ,その間にキャンバス状のイスを吊し,婦人を座らせて頂上に運び,そこからヘリコプターでアテネの病院に運んだ。結局この婦人は2頭のロバに負担をかける事になった。 結論はこの島の火山噴火(紀元前1400年)による大津波がエジプトまで到達し,大津波の前の海底が見えるぐらい潮が引く現象が,その後100年近く土地の人々に語り継がれ,モーゼの出エジプト記(紀元前1250年)に引用されたのではないかというものだ。自分の仮説がそれ程外れているものとは思えなかった。海底都市アトランティスはこの火山爆発で海底に沈下した島の一部だと云われているが,いまだに発見されないでいる。ところが昨年Google Mapが不粋で余分な事をしてくれた。カリビア海に海底都市のような影が写っていると入ると発表した。しかし,その後,探検家がそれがアトランティスであるとか,海洋探査船が見つけたというニュースは聞かない。 一番最初に海外の冒険話に関わったのはスコットランドのネス湖の未確認水棲生物ネッシー(土地の人達はLoch Ness Monsterと呼ぶ)である。現在の石原都知事がネッシ?探検隊を出すという時期で,週間ポスト誌が英国に行くならスコットランドに行き,ネス湖の怪獣の取材をしてくれと頼まれた。 私の知り合いはマクドナルドという氏名でエジンバラで映画製作会社をやっており,「ネス湖に行くなら僕の叔父さんがネス湖のあるインバネスの市長をしているから,Loch Ness Monsterの目撃者や,研究者を紹介してくれるよ!」と市長のお宅に泊まり,取材する事になった。友人は「ロッホ・ネス・モンスター・特派員」が取材に行くからよろしくと連絡をとったので,どのような日本のモンスターが現れるかと待っていたら,小柄な日本女性が現れたので驚いたと市長は笑っていた。土地のダンカンと云う人が1930年代にネス湖の怪獣を目撃したという,その息子がタクシーの運転手をしているので,彼を雇って現地の目撃者や研究者を取材して廻った。土地の人は「石原氏がネス湖の怪獣を捕らえ,持ち去って行くのではないか,サーカスの様に世界中に巡業に連れ回すのはないか」と真顔で心配していた。その数年前,ネス湖怪獣の頭部を発見と大騒ぎになった事件があった。発見した人に聞いた所,誰かがアザラシの頭を道に置くと云う悪戯であったという。ダンカンさんという60才位のタクシーの運転手に土地の名物の料理は何かと聞いた所,家内の作るブルーベリー・パイが一番美味しいと,自宅に招いてくれ,パイと紅茶をご馳走になった。話をしている内に彼は戦争中日本軍の上海捕虜収容所で,朝,目玉焼きを作っていると,日本兵が来て,熱しているフライパンを頬に押しあてていくのが辛かった,今まで日本人を恨んでいたが,貴女を見て恨む事は止めたと云ってくれた。ダンカンさんはインバーネス空港から私の乗った小型飛行機が飛び立つまで,真下で手を振って送ってくれた事を思い出す。インバネスの人達はネス湖の怪獣を大事にしていると云う感じであった。ここでもGoogle Mapが不粋な事をしてくれた。ネス湖の水面に黒い影が写っている,未確認水棲生物か,沈んだボートか分らないと発表した。伝説とか神話は謎の部分を残しておいて欲しい,Google Mapの様になんでも暴き出せば良いというものではない。 最近は日焼けによるシミが恐くて,海に潜ったり,スキーに行く事を止め,インターネット上だけで冒険するゲームを楽しんでいる。友人は60代女性編集者であるが,海洋冒険小説が好き,米国のクライブ・カッスラー("タイタニックを引き揚げろ"などの世界的ベストセラー作家)の読者でもあり,私と話が合う,銀座で優雅に食事をしていながら,私達はかなり物騒な話をしている。この数年海水温度が高い為か,沖縄近くで生まれた台風は日本本土を縦断するより,朝鮮半島,中国本土に向う。10月半ばに日本に来るはずであった台風(奄美大島の大雨の前の台風)は中国の海南島に大雨を降らし160万人の島民に洪水被害を与えたと云う(10月18日)。この時,尖閣諸島付近で脅しを掛けていた中国の監視船が突然いなくなった。中国の海軍基地は海南島にある。大雨で海南島民が大洪水の被害を受け,もしかしたら海軍基地も被害を受けている最中に尖閣諸島で日本の漁船に嫌がらせをして遊んでいる場合ではないと,基地に戻ったのではないかと推測された。海南島は九州ぐらいの広さで,亜熱帯気候,西側がベトナムのトンキン湾に面している。大洪水は建設工事やホテルで働くベトナム人には気の毒だが,海南島で不動産投資に群がる中国の成り金にも被害を与え,彼等には同情の余地はない。今年の初め頃,コンドミニアムの値段がたった一ケ月で倍に値上りしたという。そこで友人とすべてのデーター(海図,海底の標高地図,季節風,季節による海流の変化などあらゆる地理的,気象条件)をインプットして沖縄周辺で海水の温度をあげ,熱帯性低気圧を発生させ,台風に育てながら進路を黄海にとり,中国本土に向わせる。出来たら北朝鮮の軍事基地をかすめて,進めさせるという「溜飲下げゲーム」を作る事にした。。海水温度を上げる仕組みは,カッスラーの小説の中の架空の稀少元素ビザニウムで,ウラニウムの10倍の威力がある事になっている,ビザニウムを使って海水温度を上げ巨大ハリケーンを起こすという筋書きがある。 それともフィリピン沖で海水温度を上げ,中国南部,海南島に台風の進路をとらせ,海南島の海軍基地を壊滅させて,溜飲を下げるゲームを作ろうかしら。中国の60隻ある原子力戦艦の殆どは海南島を母港としている。中国海軍は2006年頃から,海南島に潜水艦地下ドックを作り,潜水艦や航空母艦が収納出来る基地を作った。英国の新聞にはその地下ドックの入り口の写真が掲載されている。ネットでは10月20日,中国海軍海南島基地で商級攻撃型原子力潜水艦が停泊している写真が載っている。海南島は領有権未確定の南シナ海を睨む軍事基地である。最近中国は一方的に,戦略的に200カイリ排他的経済水域を主張し始め,ベトナム,マレーシア,フィリピンなどと領海問題を起こしている。東シナ海では台湾が政治的に陥落したので,沖縄を包囲する戦略をとっていると思われる。その内,日本の貨物船がこれまで使っていた南シナ海,東シナ海の航路が中国の領海侵犯をしたとして使えなくなる時代が来るかもしれない。私は英国の海運関係の新聞ロイズリスト(1734年発行,世界で一番古い新聞)特派員も長い間やっていたので,2000年頃のマラッカ海峡やアジアでの海賊問題に興味を持っていた。2004年インド洋の大津波で壊滅的被害を受けたスマトラ島のアチェ特別区の住人が,海賊の首謀者と疑われていた。マラッカ海峡で乗っ取られた日本の商船は,積み荷は即売り払われ,船は中国海南島の海軍のドックで解体されると云われていた。2006年に妹が中国の海南島でゴルフをすると云うので無理矢理に付いて行った。当時海南島で初めてのゴルフコース,初めての国際級のホテルが建設されたばかりで,のどかな島であったが,2-3年して米国などの国際級のホテルが乱立していた。三亜市はリゾート施設と軍事基地を同時に拡張するという不思議な市であった。私はゴルフをしないので,散歩するフリをして,海軍基地を覗きに云った。途中で警備兵にこれ以上は入れないと止められた。私はリゾート地に来て,道に迷った日本人のおばちゃんのフリをした。カメラも持たなかったので,スパイとして逮捕されることはなかった。その当時,中国政府は海南島をハワイ以上の世界一のリゾートにすると発表し,国際資本を呼び込み,ホテル建設,ゴルフ場建設など進めた。これは随分賢いやり方で,国際観光資本でこの島のインフラ設備を整え,観光収入で海軍基地の拡張,艦船の建造を賄う。何も知らない日本人ゴルファーは自分達が払った海南島のホテル代,ゴルフ場使用料が,尖閣諸島にやってくる中国の艦船,監視船に使われているとは知らない。今度私の溜飲下げゲームに,海南島の不動産バブルの崩壊と云う筋書きを加えよう。海南島の大洪水で,不動産の叩き売りが始まり,不動産バブルが破裂すると云う筋書きである。 ついでに,今年7月10日,米国政府は,米国政府機関,軍事施設,民間企業に頻繁にサイバー攻撃を加える発信源が中国人民解放軍,海南島基地であると発表した。 日本でも,四国の小さな町の町役場まで,この海南島基地からハッカー攻撃を受けたと云いう。 終 柴田 |
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