ジャーナリストのパソコンノートブック
(71)不機嫌なヨーロッパの国々
  
  「黒い羊」ポスター
   スイスのチューリッヒ空港に着いて最初に目にしたのは市内へ地下鉄駅の壁に貼られた「黒い羊」の大きなポスターである。白い羊群れに一匹だけ黒い羊が混じっており,黒い羊は足許に引かれた線を踏み出している。昔から「黒い羊」は目立つので迷惑者を意味する。私はドイツ語が分らないが,大きな活字で「迷惑者の移民は出て行け!」と書いてあるという。外国人嫌いの極右派のSVP党が作ったポスターであるという。チューリッヒの市内に出て驚いた,中東,東欧,アジア,アフリカ系の人が多い,ロンドンと変らないぐらい他民族で溢れている。スイスは昔は外国人移住には余り寛容な国ではなかった。しかし,2002年スイスは国連に加盟し,国連欧州本部,国際赤十字,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)本部など多くの国際機関の本拠地が置き,国際平和交渉の場所にも選ばれているので,2004年東欧の難民の流入を認めざるを得なくなった。最初は旧ユーゴスラビアやスリランカからの移民が,次第にイスラム系移民が増え,居住外国人は20%以上に達している。外国人流入は失業,犯罪の増加を招くとして,2006年9月国民投票(レファレンダム)にかけられ,外国人法と難民法の改定が決まった。これはEU,および EFTA以外の国や地域から来た外国人の就労を制限する法案で,スイスでの就労者の手に技能をつける職種は禁止。スイス人とEU / EFTA諸国出身者の間で人材が見付からない場合だけ採用すると云う原則,業種別に人数制限を設ける原則であった。移民にはいわゆる3K(きつい,汚い,危険)の仕事に付く事を許した。日本の旅行案内書には書いてないが,チューリッヒはヨーロッパで犯罪の多い町と有名である。空港の観光案内所で配っているチューリッヒ市内の地図上にも,スリやひったくりが多いとどくろマークが印してある。チューリッヒの繁華街は以外に小さく,銀座1丁目から8丁目位であるが,どくろマークだらけである。タクシーの運転手さんは私が車のドアを開けて,写真を撮っていたら,ドアを閉めろとひどく怒る。不法移民があっという間に,後部座席のハンドバックをひったくって行くからだと云う。東欧からの移民の女性はお手伝いさんなどとしてスイスの家庭には不可欠な存在となったが,スイス人には信頼はされていない。住み込みではなく,通いのお手伝いさんで,どの家も玄関や窓には5個位のカギをつけ,5個全部カギをかけるのではなく,3個位を日によって順番を変えてカギをかけるという。しかしイスラム系の移民の急増( 50万人)は極右派政党SVP(現在議席30%)を刺激した。昨年末スイスにあるイスラム教のモスクからミナレット(光の塔)を禁止する法案を国民投票にかけ,圧倒的賛成で成立させた。政治難民を装った経済難民が多すぎる事が国民の反発を招いたようだ。スイス当局は2007年頃からナイジェリアやカメルーンで「スイスは天国ではありません」というTV CMを流している。今年春,1500名ものナイジェリア人が政治難民申請したが,スイス連邦司法警察省移民局アラール・ドゥ・ボア・レモン新局長は「彼等は,難民でなく,犯罪を犯しにスイスに来る。彼等の大半が犯罪の世界をさまようか,麻薬取引に手を染めている。悲しい事実だ」とドイツ語系新聞に本音を漏らしてしまい,注目を浴びている。しかし,スイスのモスクのミナレット禁止法案は,直接的な入国拒否とか強制的送還とかの措置でなく,間接的なイスラム移民の回避の妙案であると,他のヨーロッパ諸国でもモスク建設禁止を歓迎している。チューリッヒは時計の聖地である,どの会社も美しく精緻を施した時計塔を建てている。まるでお伽の国に来た様だ。夕方のある時,これら時計が一斉に時報の鐘を鳴らす,とても美しい音色が町中に響き渡る。こんな平和な町にイスラムのモスクが建てられ,コーランが響き,黒いヘジャブを来た女性達が歩き回ったらたらひどく違和感を感じる。スイス人が反対する気持ちも分る。
 
  「オランダ」
   かって世界で一番移民に寛容で自由な国だ自認してきたオランダは移民の急増,外国人参政権付与による政治的発言力の増大,多文化共存主義により社会の荒廃に悩んでいる。その反動として国内に極右政党の台頭を許し,移民制限,イスラム教徒排斥を掲げるた自由党が6月9日の総選挙で大躍進をして,オランダの右傾化を示している。極右・自由党のウイルダース党首は「オランダ人は犯罪,移民,イスラムの少ない国を選んだ」と発表。自由党の公約は「モスクの新設禁止,イスラム教の聖典コーランの発禁,ヘジャブ(イスラムのスカーフ)着用への罰金など,反イスラム色が強い。イスラム系移民(モロッコ,トルコ)の大半は1960年頃労働者としてオランダに入って来た人達でである。オランダのイスラム系移民は総人口の10%,百万人に達する。こんな狭くて小さな国がこれだけのイスラム系移民を抱えて,財政と雇用の悪化を招かない訳がない。移民はオランダ人とは融和せず,アムステルダムなどの都市部に集中して,ゲットーに居住して,一種の国内別国家のような生態を形成した。オランダ人がゲットーに入って行こうとすれば敵意をもったモロッコ人人等に襲われる,オランダ政府のとった多文化共存主義がこの惨状を招いたという。例えばオランダ政府はイスラム教徒の為にモスクの建設に資金援助をしたり,イスラム住人の2世,3世には学校でホスト国の言語でなくアラビア語での授業を許してきた。 昨年11月オランダでイスラム系社会を批判する映画を作った映画監督テオ・ファン・ゴッホ氏がモロッコ人に殺害された。ゴッホ氏はあの19世紀の画家ゴッホの兄妹の孫で,芸術家である。ついにオランダ政府も多文化共存と云う外国人に寛大な政策をとった事が間違いであったと認めざるを得なかった。今年2月オランダ議会が不法入国者26,000人の国外追放を議決した。オランダの南西部のロッテルダムではあと6年で(2016年に)住民の半分が外国系住民が占める様になると云う。移民の受け入れに市は年間70億ユーロ(7700億円)をも費やしている。流入を阻止すべきだと地方政党はいう。極右・自民党はキリスト教会の数より,モスクの数が多くなるのは我慢がならないとモスクの建設を禁止,イスラム系女性に頭からすっぽり被るヘジャブ(スカーフ)の着用に罰金を課す法案を準備している。イスラム教の女性がすっぽりとスカーフを被るのは,自分の夫以外の男性に顔を見せてはいけないと云う宗教的理由である。オランダ人はイスラム系女性が多産であるので,オランダに定住して欲しくないと思っている。スイスでも同じような懸念を聞いた,2050年にはスイスはイスラム女性が産む子供の数のお陰で,イスラム系住人が過半数を占めると懸念する。イスラム教の指導者は多産のイスラム女性を移住させれば,「戦いなしにヨーロッパを制服出来る」と明言している。そのような見方をすれば,黒い衣装ブルカで顔を覆い町を歩くイスラム系女性が無気味に見える。  
   ベルギーでも今年4月,イスラム教徒の女性が顔を覆う衣装ブルカやニカブを公共の場で着用する事を禁ずる法案が下院で可決された。

   フランスは,この5月イスラム系女性が全身を覆うブルカという衣装や目だけ出して頭から被るニカブと云うスカーフの着用を公共の場所で着用する事を禁止する法案が可決した。違反すると750ユーロの罰金がとられる。これら衣装はテロリスト達の犯罪に利用されるという恐れからだ。ブルカの下には男性かもしれないし,武器を隠しもっているかもしれない。正教分離を徹底するフランスでは2004年に公立学校でのニカブの着用が禁止されている。フランスでは1960年代から工業化が進み,労働力確保のため,マグレブ(北アフリカのアルジェリアやモロッコ)から大量移民を許した。フランスは血統主義(両親の一方がフランス人なら自動的にフランス国籍)と出生地主義(両親が外国籍でも子供が5年間フランスに居住していれば,フランス国籍を所得出来る)という2つの国籍法をとっている。移民達には郊外の団地が与えられた。移民達の生っ粋フランス人への不満が募り,1995年7月25日地下鉄の爆弾テロが起り,死傷者は90名近くに上り,それ以降も爆弾テロが各地で相次いだ。フランスでは1人のイスラム住人が呼び寄せる家族の数が100名に上る事があり,昨年から遺伝子解析装置を使って調べる等流入を厳しく制限しはじめた。
   ヨーロッパのどの国でも財政赤字の負担が重く,早急の財政の見直しが必要となって来ている。年金の時限爆弾が破裂しそうなのだ。戦後のベビーブ?マ?の世代が大量に停年を迎え,年金資金は若い世代の小子化と金融危機による年金資運用の失敗等で積み立て金不足に陥り,赤字が続いている。解決方法は支給年齢を先延ばしする事だ。先頃ドイツは年金制度改正法を成立させ,毎年1-2ケ月年金の支給開始時期を遅らせ,2029年には年金の支払開始を67才にする事に決定した。フランスは財政赤字がGDPの7.5%に達しており,年金の赤字が1億ユーロに達している。それを解消する為に100万人の公務員の年金開始年齢を60才から62才に先延しにすると決定した。6月23日パリでは13万人の公務員が抗議デモに参加した。ギリシャに端を発する,財政赤字問題で,移民問題が大きくクローズアップされ,ヨーロッパ諸国では移民の排斥などを唱える,極右派の政党が勢力を伸し,右傾化を強めている。
   イギリスは国の財政赤字がGDP(国民総生産)の11.1%とあと少しでギリシャのに近い危険水域に来ているのに,1948年に設立した国民医療サービス(NHS)で国民に無料の医療サービスを行なうと云う原則は崩してない。NHSはかっては世界の垂涎の的であったが,現在は多大な税金を使う金食い虫になった。NHSの財源はVAT (消費税)と一部であるがナショナル・インシュアランス・コントリビューションズ)(NICS)である。 財源の割合はVAT 80%, NICS 18%である。 NICSには医療保険,失業保険,障害保険,年金も含まれる。英国も年金の時限爆弾の問題を抱えており,前政権の労働党が打ち出した政策では,年金の支給時期を65才から 68才に遅らせるもので,キャメロン保守党首もこの政策を受け継ぐと云っている。日本や米国は企業や個人の積み立てで医
療保険や老人介護費用の財源とする。少子化の影響で,介護される老人の方が介護する若い世代より多くなりそうで,民主党や自民党は英国の様にVATを10%にして,財源を確保しようとしている。消費税値上げは参議院選挙の争点になっている。
   英国は6月23日発表の予算案でVATを17.5%から一挙に20%に上げた。NHSの改革をするには英国は先ず移民の福祉の悪用を止めなくてはならないであろう。アフリカやインドの貧困層の人々は多産である。子供は8-10人ぐらい産む,乳幼児の内に死亡する率が高いので大勢産んでおかないと働き手は得られないし,老後の面倒を見てくれない。彼女達は英国にきても子供を沢山産む。英国も出生地主義をとっているので,英国で生まれた子供は英国国籍を所得出来る。英国籍の子供は13才になるまで親が英国に滞在して面倒を見なくてはならない。英国のNHSは原則無料で診察してもらえるし,旅行者も無料で診てもらえるし,「(少し前までは,今は1年以上在住),出産費用も無料である。生まれた子供だけでなく,親も全て生活保護の手当てを受ける。本国では住めないような部屋数の多い住宅も無料で貸し与えられる。移民の中には弁護士や医者もいるので,病気の診断書を書いて貰えるし,母国から子供を何人かを我が子として連れてくる許可証もとって貰える。このように白人が収めた税金で,非白人である移民が,医療費から,住宅,生活保護まで全て面倒を見てもらう図式が出来上っている。彼等は働こうとしないで,英国の福祉を享受する。以前ロンドンの下町のマーケットを見学に行った時,肥ったアフリカ系の中年女性と,同じような体型のインドの中年女性が取っ組み合いの喧嘩をしているのを見た。馬乗りのになったインド女性は「私は親の代から英国に住んでいるよ,あんたみたいなアフリカで裸でくらしていた原住民と育ちが違うのよ!」と怒鳴りあっていた。確かに彼女達は福祉太りしていた。英国では医療システムには薬や,医療方法が際限なく使われるのを防ぐ為に,個別の患者の投薬の効果を評価する「NICE」というシステムがあり,患者が年に使える予算は?30000(42万円)と上限をもうけている。NHSは癌患者に新しい有効な薬があるのに処方しないで,移民のお産や医療を無料にし,生活保護を与えている。自国民に不平等だと不満の声が高い。 医療費が無料であると云う事で,エイズ(HIV)の患者も世界中から英国に集まっているという。オックスフォード.ラドクリフ病院では,HIV患者の80%が外国人であったという。もし彼等が英国でHIV陽性と診断された場合,人権法が適用され,治療中は無期限で滞在が許可されるという。
   英国にさらに新たな移民が加わった。英国はユーロには加盟していないが,EUのメンバーである。2006年EUが一挙に拡大して26ヶ国になり,東欧の国々が含まれる様になった。私は昨年7月号に「世界の移民」について記事を書いたが,最初にEUに加盟したポーランド人は働き者で評判が良かった。2004年からの3年間で100万人のポーランンド人が出稼ぎに来た。彼等の行動は "Visit by coach, fly back by jet" ( 長距離バスで英国にたどり着き,ジェット機でポーランドに戻る) 表現される様に金もうけをしたら,ポーランドに戻って生き,英国の社会保障の世話にはならなかった。しかし,他の東欧諸国の人々は一旦滞在が認められれば,各種の社会保障の恩恵を享受出来る英国は魅力的であった。ルーマニアやブルガリア人は特別な技術も持たず,働く気もなく,英国の福祉のお世話になる事を目的にしてきている。 ドーバー海峡のフランス側のカレーにはアフリカから,車を何台も乗り継ぎ,トラック等の荷台,車の底等にしがみつき英国側にたどり着こうとするアフリカ人の不法移民が何万人といる。
   英国もオランダの様に多文化共存主義をとっており,移民に英国の文化,英国の言語を強制しなかった。2007年に起きたロンドンで地下鉄,バス等で無差別テロ事件が起きた。犯人は英国籍のパキスタン移民の3代目で,イギリスで生まれ,イギリスで育ち,英国の大学まで出ている。大学時代にでアルカイダの洗礼を受け,パキスタンに旅行して軍事訓練を受け,自爆テロを起したのである。これは英国政府にひどいショックを与えた。彼等は英国の福祉のお世話になりながら,テロリスト教育を受けた,しかし英国社会とは融和せず,疎外感だけを持つ様になた。ロンドン市内には英語を母国語としない子供の数が多い小学校が多い。英国政府は新しく永住権を申請する為には英語と英国文化のテストをする事にしたという。
    日本政府は老人介護者不足の為に移民を受け入れようとしているが,相当の訓練(衛生面で)をしなければならない。ロンドンにある高級老人ケア・ハウスの見学をした。友人と彼女の母親のナニ?(乳母)として2世代仕えてくれた85才の老婦人の入所させている。公園に面し,個室の素晴しい施設である,そこで働いているのは介護士は全員インド女性は皆優しくて,ニコニコしている。介護士は老婦人に喉が乾いたでしょうと大きなピッチャーで水をもってきてくれるが,グラスを持ってくるまでは頭が回らない(毎日の事である)。この乳母が毎日同じ服を着ているので,その服がお気に入りなのか聞いたら,一年間一度も服を着替えさせて貰っていなかったという。移民出身の介護士には衛生面で相当教育をしないと難しい。英国のNHS病院でMRA(抗生物質が効かない細菌)で院内感染で死亡する人が多い。英国病院の衛生情況調査の結果,病院スタッフの中には手も洗わず別の患者の治療にあたっているケースが珍しくないと云う。オランダも旧植民地のインドネシアからの女性達を招き,介護士教育を施し,老人介護システムを作り上げようとしたが,文化的に無理であった(イスラム圏内では手桶の水で手でお尻を拭う,そしてその後の手洗いの習慣がない)インドネシア女性を使うのを諦め,自分達のコミュニティーで在宅介護をするシステムを作り上げたという。  
   民主党の様にヨーロッパの国々が移民を認めているからと云って,理想主義の議員達が移民を安易に認めたり,参政権等を与えようとしたら,後で手が付けられないほどの問題が起きてくる。オランダやスイスの例を反面教師にして,移民だけのゲットーを作らせない,日本語の教育を施すなど同化政策をとるべきだ。民主党が子供手当てを1人26,000円払うと決めた途端,川崎市に住む韓国人が,本国で養子縁組した子供590人分を請求する等早速悪用されている。この男性が韓国系の弁護士を使い正当だと訴訟を起せば,法律上勝訴する可能性もあり得る。移民問題は民主党の議員達が考えている程甘くはない。最近では韓国からの不法滞在者は,糊のようなもので新しいい指紋を付けて再入国してくるという。フランスではないが遺伝子解析装置など新技術で対応しなければだめだ。 英国のRAND研究所がヨーロッパの国々が小子高齢化に対処するため,この数十年認めた移民政策の結果を発表している。移民を認めた国は移民の生活保護,医療,住宅,子供の教育費の面倒をみなければならず,彼等が国に払う税金(医療,老人介護を支える)は貧困のため,免除されているので,国家への歳入として寄与しない。移民の子供が大人になる頃,彼等自身も自分の年老いた両親の面倒を看なければならず,看護婦,介護士としてあてにはできない。結局,移民は財政に赤字負担を強いる。一番良いのはフランスやスエーデンが取った政策,自国の女性の出産率を高めることである。出生率を2.1倍以上にすれば,移民の世話にならず,人口の高齢化に何とか対処出来ると云う。


   (終り) 柴田

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