ジャーナリストのパソコンノートブック
(51)現地の人に聞け

「ブリン・ブリン大統領」

   知識として漠然と知っていても,その国の人の説明で見るとでは大きな違いがある。例えばフランスのサルコジ大統領だ。9月29日のNY発の金融大暴落で,ヨーロッパの金融機関の影響を危惧するインタビューで,フランス人らしく手のアクションを入れて話すサルコジ大統領の手首で光る大きめなローレックスの腕時計に目を奪われた。スイス人記者に聞くとローレックスのデイトナ・プラチナという型で450万円位するものだという。彼は派手好き,全身ブランド品でかためている。彼の金ぴか趣味を皮肉ってフランス人は「ブリン・ブリン大統領」(BlingBlingPresident),ブリン・ブリンは1980年代の黒人ラップ・ミュージシャンが成功の証しとして,金やダイアモンドのネックレスやペンダントを身に付けたのが語源であると云う。ル・モンド紙のネット版は昨年バカンスでマルタ島訪れたサルコジ氏がボートで出航する写真を載せ,”Ca commence Malte”という意地悪な見出しを付けている。Malteはマルタ島,直訳すれば「マルタ島を出航」であるが,“Ca commence malte”はフランス語の慣用句で「最初から駄目じゃないか」と云う意味である。これに対し,ブリン・ブリン(金ジャラ)大統領はネットなんて見ない,ラジオも聞かない新聞も読まない。読むのはカナル・アンシュネ(諷刺雑誌)と答えている。

   昨年7月に就任して数カ月目にセシリア夫人と離婚し,3ヵ月後にはスーパーモデルで歌手のカルラ・ブルーにさんと3度目の結婚をした。彼は好んでヨーロッパや米国の富豪と付き合いを求める。富豪の友人のジェット機を乗り回し,豪華なヨットで,豪華な別荘のバカンスを楽しむなどマスコミへの過剰な露出が国民の反感をかっている。支持率はダイアミックな大統領の出現と期待された就任時の67% から,今年1月の54%, さらに38 %と急落している。

サルコジ大統領は今年7月の洞爺湖サミットのようなG8の国々の首相,大統領などとのグループ写真が嫌いだとか,それは彼の身長が162センチと見劣りするからだと云う。イタリアのコリエレ・デ・ラ・セ?ラ紙がサルコジ大統領がシークレット・ブーツを履いていると暴露している。

   サルコジ大統領は黒い噂が流れるビジネストップとも平然と高級レストランで会食する。夫人と出かけるバカンスのジェット機代は,ヨット代は誰が払うのかなんてマスコミの憶測なんて気にしない。日本では考えられない所業だ。もし今回のNY金融危機でフランスの銀行が数行連鎖倒産しても,大統領の失策として辞任に追い込まれる事はないからだ。フランス通の評論家倉田保雄氏によると,ドゴール大統領が制定した第五共和制憲法によって「職務の行使に於いて行なった行為について,責任を負わない」と明記されているので,サルコジ大統領は任期5年間は自殺するか,暗殺されるか,辞任する以外安泰そのものであるという。何でもありのブリン・ブリン大統領は途中辞任に追い込まれた安部首相や福田首相にとってまったく羨ましい存在だ。


「インド映画にはキス・シーンもラブシーンもない」

  先日元駐日イラン大使(英国で亡命して,現在東京で会社経営)の豊洲の真新しいマンションに招かれた。奥さんによると,このマンションではロスアンジェルスのイラン人専用のTV番組(ケーブルTV)が見る事ができると云う。ロスにはかなりの数のイラン人が住んでいると云う。真っ白なジーンズにぴったりしたシャツのハンサムなイラン人歌手が米国で流行している曲をペルシャ語で唱っている。周りで踊っているイラン人の女性もビキニだけでセクシーに腰をふっていて,信じられない程アメリカナイズしている。1979年のホメイニー師の宗教革命後黒いチャドルで全身覆い隠し,ベールで顔を隠しているイラン女性しか知らない私にとって驚きであった。その家でインドの映画を見る事になった。中東ではインド人労働者が多く働いており,インド映画はラブシーンが無いと云う事で上映が許され,中東ではインド映画が大人気であるという。その映画はペルシャ語に吹き替えられたインドの恋愛映画であった。インド人にとってハンサムな男優は下膨れで,ぽちゃぽちゃの体型。日本人女性は皆インドの男優はいただけないという。美しいサリー姿の女優と愛を語る,しかも,天蓋付きのベッドの側である。二人が盛り上がってキスをする寸前に場面が切り替わり,頭のてっぺんから出てくるようなかん高い歌声と共に原色の豪華な衣装をきた20人ぐらいのバックダンサーの強烈な踊りが始まった。腰をくねらせ,凄く激しい踊りで,これでベッド上の行為を想像させようとするのかしら? 英国で見たインドの恋愛映画のラブシーンは男女二人のセクシーなダンスに切り替わったが,二人は指一本触れず踊った。。

   インド映画は分かりやすい娯楽作品で,映画製作所集中するボンベイ(現在ムンバイ)で年間800本も作られる(日本は250本位)。米国のハリウッドに匹敵するので,ボンベイをもじって,ボリウッドと呼ばれる。映画はIT産業と共にインドの2大産業だ。日本の野村ホールディングがインド映画に17億円の投資をしている。インド映画の観客動員数は年間2,180万人であり,海外に輸出しているので(東南アジア,中東,米国など),世界中の動員数はハリウッド映画より多いかもしれない。最近潤沢な資金を持ったインド映画会社はハリウッドの映画製作に資金提供を始めた。「Happening(ハプニング)」という映画の制作費5,700万ドルの半分をインドの映画会社が出したと云う。今年夏インドのリライアンス・ビッグ・エンターテイメントはトム・ハンクス,ジム・キャリー,ブラッド・ピットなど有名スターを有するプロダクション会社との間で,この先2年間10億ドルの予算で映画を製作する契約を結んだ。金融危機でウオール街の金融機関から資金調達が出来ないので,ボリウッドからの出資は有難い。ハリウッド映画の既存の観客に加え,膨大な数のインドの中流階級,中東など新たな市場が開拓できるので,ハリウッドにとっては絶好のチャンスである。ヒンズー語への吹き替えはインド側が行なうという。


「米国ではトイレの話は本当にタブー」

  今年の6月号でウオシュレットが海外の販売で苦労してきた,特に米国ではトイレの話題はタブーであると書いた。 先日偶然にも”Sex and the City” (SATC)というTVシリーズ番組を見て驚いた(9月で終了)。NYで働く30代の独身女性4人の仲良しクラブで,毎回各々のセックス冒険がテーマだ。4人でこれ迄で一番のヤバイ経験はなに?と話し始めた。新聞に”Sex and the City”という人気コラムを担当しているキャリーが,「実はこの間ボーイフレンドのアパートに泊まった時,彼のトイレでbigs(大便)をして来ちゃったの」と恥ずかしそうに告白すると,他3人が「軽蔑するわ!なんて恥ずかしい事を!」,「なんて品のない事を!」などと非難の大合唱。 彼女らの中で年配のPR会社経営者のサマンサというあねご肌の女性は「私はNYの独身男性の半分とは寝たけれど,トイレで大便をするような恥ずかしい真似は一度もしてない」という。他の二人,ミランダは企業担当のらつ腕弁護士,お嬢様風のシャーロットは画廊を経営している。4人ともバリバリのキャリアウーマンであり,毎週男性をとっ替えひっ替えして,すごくさばけている。弁護士のミランダは新しいボーイフレンドが包茎で悩んでいると云うと,他の3人がそれは「さやエンドウ豆みたいなもの?」,「それはブルドッグのほっぺみたいなもの?」と聞く。ミランダはNYの男性の20%が包茎で,私はその20%ばかりと出会い,運が悪いと嘆く。そこで,皆でブルドッグのほっぺ君の治療代をカンパする。セックスの話題にはこれほどあけすけで,ぶっ飛んでいる女性達でも,トイレの話となるとすごく恥ずかしがる,これがいまだにアメリカ人の分らないところだ。


「ヘアーデザイナー」

   このSATCは世界各国で放送され,働く独身女性達の共感を得た。主人公達が住んでいるアッパー・ウエスト通り,4人が集まるレストラン,スイ?ツの店,高級ブティックなどを訪れるSATCツアーがすごい人気である。この話,聞いた事があると思ったエピソードがある,キャリーの新しいボーイフレンドはスポーツジムのインストラクター,彼には妙な性癖があって,キャリーのデルタ地帯の毛をデザイン・カットすることだ。キャリーの為に稲妻型のデザイン画を書いて,キャリーに気に入られた。キャリーは得意になってスポーツジムのサウナに入った。サウナで隣に座った若い女性のデルタ地帯を見ると,自分と同じ稲妻型デザインではないか。キャリーは即座に悟り,ジムにいたインストラクターをぶん殴って帰った。10年ぐらい前,同じような光景を聖路加タワーの地下にあるスポーツジムで見た。会員制ジムのサウナで韓国美人が長い間サウナに出たり入ったりして身体を磨いていた。特にデルタ地帯の手入れに熱心で,ハサミで刈ったり,毛抜きを使ったりするので,日本人の有閑マダム達はサウナ内での脱毛,垢スリを禁止して欲しいとスポーツジムに訴えた。そこで私が頼まれ,サウナ内では駄目だと韓国女性に英語で説明した。有閑マダム達は彼女が金持ちの愛人で,この近くのマンションに囲われており,午後一杯サウナで時間を潰していると噂していた。その内有閑マダム達が「見た? 見た?,彼女の下の毛,ハート型に切り揃えてあるわよ!」と騒いでいた。本当に見事なハート型だ。しばらくしたら,マダム達は彼女のハート型がどんどん小さくなって,切手のサイズだと噂していた。実は小さなハート型は香港からの別の女性であった。私は韓国の女性に聞いてみた,「下の毛をハート型に切り揃えるのはアジアでは流行しているの? このジムにもう1人,ハート型の香港の女性がいるけれど,彼女のはすごく小さなハート型」と云ったら,韓国女性の形相がガラリと変り,「その香港の女はどこにいるの?」と飛び出していった。それ以来彼女を見かけなくなった。有閑マダム達は,二人とも同じヤクザの親分に囲われていたに違いない,ヤクザの親分はハート型が好みなのだ,貴方が余分な事を教えなかったら,波風が立たなかった。ヤクザの親分に恨まれるわよ!」と脅かされた。

  SATCを見て心配したのは,NYで女性がこんなに奔放な生活をしていたら,エイズをまん延させてしまうのではないかと云う事だ。その点でTV製作者は手を打ってある。 あるパーティでサマンサ姐さんはNYで一番のプレーボーイと自認している男に「あんたが寝た男の数でNY一番のサマンサか」と挑戦を受けた。ベッドに入る直前にその男に「最近3ヵ月以内に,エイズの検査を受けたか」と聞かれた。サマンサは一度も検査を受けた事が無いと答えて,彼に追い返された。屈辱的だがサマンサ姐さんは,初めてエイズの検査にでかけた。検査後,別室に来て下さいと呼ばれて,彼女は気絶した。別室でエイズだと宣言されると覚悟していたらしい。看護婦はただ普通の注意事項を伝えようとしただけだという。友人達は彼女の奔放な生活はロシア式ルーレット(弾丸が一発入っている拳銃の弾倉を回し,自分の頭にむけて引き金を引く無謀な遊び)だと云う。エイズにならなかったのが奇跡に近い。


「軽々しく云ってはいけない言葉」    

   若い日本女性はボーイフレンドが”I love you”と毎日云ってくれないとか文句を云うが, SATCを見て「I love you!」はそんなに軽々しく云うものでないと分った。SATCでは弁護士のミランダは3週間つきあったの若い男から「I love you!」と云われた。ミランダはたった3週間で「I love you」はおかしいと女友達に相談した。 友達も,何かあるとと云う。彼にどうしてと”I love you”と云ったのか,問いただすと,彼女みたいなキャリアーウーマンを他の男に取られたくないからだという。実はこの男は働かず,年上でも,稼ぎの良い女のヒモになる積もりである事が分り,追い出された。

   やはり,軽々しく口に出していけないのは「死の床の告白」である。英国人の投資銀行家と結婚した友人(日本人)が難病に罹って,死を覚悟した。キリスト教では死の床で罪を告白すると魂が軽くなるといわれ,告解司祭に告白する,司祭はプライバシーを守る。彼女はなぜか,御主人の同席を許した。そしてこれまでに2度浮気をした事を告白した。しかし,彼女は生き返ってしまった。元気になった彼女に夫は離婚を言い渡した。人間にはあの世まで持って行きたい秘密がある,軽々と口に出してはいけないと悟った。.


「マンケーション」

  英国大使館敷地内に一軒だけ,参事官クラスだが独身の外交官の為の家がある。私はこの屋敷の住人3代に渡って,夕食会などのテーブルの片端,主人側の反対側で通常奥さんが座る場所に座らされ,女主人の役目を勤めた。3人の参事官の内,二人はどうも女性が好きでないらしく独身(もちろん,すごく紳士的で,魅力的なので,日本女性達は英国に戻った彼らのもとに押し掛けて行った程である。しかし,いくら優秀でも,妻帯していない外交官は大使にはなれない,二人は大使になる手前でに英外務省を辞めて行った),もう1人は体臭がひどく,大使からここは日本だから,一日2度シャワーを浴びるように云われた人だ。英国人のボスなどは,私はまるで英国大使館に備え付けの家具の様だと皮肉を云った。最初の参事官はシェークスピアの俳優になった方が良いような男前であった。私が忙しい時は,黒柳徹子さんがテーブルの片端に座って,女主人の役目を果たした。黒柳さんはいまだに彼の性的志向を知らない。その後あるパーティの帰りに黒柳さんの車で送ってもらった事があったが,彼女はその外交官に置いて行かれたと嘆いていた。本当の事を云ってあげようと思ったが,年配の女性ののロマンティックな思い出を壊すのは悪いと思い黙っていた。ある日この参事官からアフガニスタンで昔英国のハイ・コミッショナー(高等弁務官)をしていた知人が訪日したので夕食会をするのでいつもの席に座ってくれと招待があった。お客は外務省の元英国大使夫妻など,外交官ばかりであった。高等弁務官は一昔前の英国の植民地の役人と云う感じの老紳士で,ソ連のアフガン侵攻で追い出された外交官だ。夕食のコースが終わり,デザートとコーヒ,コニャックなどのリキュールの前に,女主人はゲストの女性客全員を2階にあるパウダールーム(化粧室)に連れて行かねばならない。私はこの元高等弁務官からアフガニスタンの話をもっと聞きたくて,二階に行きたくなかった。高等弁務官は英国の様な古い国では,ディナーパーティーでタバコも吸わず,女性客に合わせて会話をするのは男性側にすごいストレスがかかる,女性達が化粧室に30分位入って,男性客を解放してあげなければならないと諭された。二階から,下の階の男どもはとこっそり覗いてみると,イスの袖に足を掛けて弛緩したように寝そべり,葉巻きやタバコの煙りでもうもう,コニャックもガブガブのんでいる。本当に解放されていた。

   欧米の男性は, レディファーストと女性に気を使い,家事を助け,子供の面倒を良くみる。しかし,「良き夫,良き父親」であり続ける事に疲れてしまう様だ。女性から,家庭からと日常的な物から解放されたいという願望を持った男性に休暇を与えようという動きにホテル業界が乗り出してきて,Man (男)とVacation(休暇)を合わせ,Mancation(男の休暇)と云うパッケージを売り出した,これが大人気,米国の既婚者の6割がマンヶーションを経験したいとアンケートで答えている。日常生活から離れて,男性の仲間とビールを飲みたいだけ飲んで,葉巻きを吸い,ビリヤードやポーカーをする。野球,アメフト,ホッケーなどを観戦する,叉はスポーツバーでビールを飲みながら,大声で応援する。女,子供を残して,男同士でトレッキングに出かける,牧場でカーボーイごっこする。ゴルフをする。最初にマンケーション・パッケージを売り出したシカゴのフェアモントホテルの内容はステーキを含め3コースの夕食に,カクテルの作り方セミナーがあり,ウイスキーの試飲会,葉巻きやポーカーゲームという可愛いものであった。ラスベガスが本格的に乗り出して,商業化してきている。ラスベガスでは今年ケンタッキーバーボンの飲放題というパッケージが人気があると云う。 これなら日本のサラリ?マンは毎日マンヶーションを楽しんでいる事になる。タバコを吸い,会社の帰りに男同士で飲み屋に行き,週末はパチンコやゴルフ。マンケーションのパッケージは日本では売れないであろう。

   終   柴田

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