ジャーナリストのパソコンノートブック |
(47)海外の日本に対する誤った思い込み |
日本の調査捕鯨船日新丸が航海上で国際環境NGOグリーンピースの暴力的抗議行動を受けた場面は記憶に新しい。2001年頃からグリーンピースは日本の調査捕鯨船にたいし抗議運動を始め,年々過激になってきており,エコ・テロリズムと呼ばれている。 グリーンピースは日本が調査捕鯨という名目で,実際は商業捕鯨をしている事を証明するために,西濃運輸が調査船員の自宅に宅配で搬送途中の小包を盗んで,中身を勝手に開けて,乗り組み員が鯨肉を横領していると告発した。グリ-ンピースの主張によると,日本鯨類研究所,日新丸,共同船舶株式会社は乗り組み員に,鯨の高価な尾の部分の肉をお土産として与える慣習の存在を認めたという。グリーンピースの告発状では調査捕鯨については国民の血税が年間5億円注ぎ込まれているという。これは調査捕鯨に必要な費用の50%を賄っており,残りの経費は調査捕鯨で捕獲した鯨肉を闇市場で横流しして賄う。だから商業捕鯨であるとグリーンピースは主張する。日本国民の税金の補助を受け調査捕獲した鯨肉を船員がお土産に貰ったから,横領にあたると日本国民のために問題提起してやったと宣伝している。グリーンピースは水産庁に調査捕鯨への補助金の支給停止を申し入れた。 グリーンピースはワシントン,キャンベラ,バンクーバー,パリ,ベルリンの日本大使館前で鯨肉横領スキャンダルと書いた漢字の横断幕を掲げ抗議活動をしている。オーストラリアやニュージーランドのTV放送や新聞はグリーンピースが暴露した鯨肉横領問題で日本国民の世論は大きく動揺していると報道していたが,どうもグリーンピースのピントがずれている,日本国民は横領事件に慣れているから,鯨の尾身のお土産をもらったかどうかで世論は揺れ動かない,まして,グリーンピースに日本の政治問題に頭を突っ込む権限はない。かえって,.環境保護という名目なら所有者の了解を得ずに,搬送途中の小包を盗んで勝手に開けて見る行為が許されると考えるグリーンピースの窃盗行為が目立ち,逆効果を生んでいる。法曹関係者も,西濃運輸への不法侵入,荷物の窃盗,西濃への業務妨害で犯罪に問う事ができると云う。共同船舶も窃盗容疑で告発した。 グリーンピースは1971年カナダのバンクーバーで米国のアラスカでの原爆の地下実験を阻止するために誕生した。1975年以降,反核ばかりでなく,捕鯨問題,過剰漁獲問題,海洋汚染問題,フロン使用によるオゾン層破壊物質の抑制,オゾンを使わない冷蔵庫(グリーンフリーズ型)生産。森林伐採による生態系破壊問題,太陽発電などの再生可能エネルギーの普及,地球温暖化問題など幅広い活動を続けている。 グリーンピースの活動は横断幕を掲げて違法に建物によじ登ったり,活動家が自らを木に縛り付けて森林伐採を違法の妨害するなど,なるべく目立って効果をあげる戦略をとってきた。自然保護の分野でのイベント業・広告代理店である。グリーンピースの活動拠点(欧米)では公害問題が殆ど解決し,地域に密着した環境問題は少なくなった,結果として地球温暖化,捕鯨反対などのロビー活動が主要活動となる。活動資金は募金に頼っているが,反捕鯨運動では米国やオーストラリアの畜産業界から相当額の活動資金を得ているといわれる。その為,派手な妨害運動でマスコミの関心を集めて,組織の存在をアッピールしなければならないという事情がある。彼らの論拠は欧米の食文化基づいている。北欧諸国,ロシア,英国などヨーロッパの国々も過去捕鯨に従事していたが,灯油を取る為にのみ鯨油を取り,残りは利用されず捨てられたと云う。日本の場合,鯨の肉ばかりでなく,骨,皮,膀胱,ヒゲなど全てが有効利用された。江戸時代鯨一匹がとれると周辺の7つの村が飢餓から救われたと云われている。グリーンピースは古くから鯨を食する国々の食文化を無視している。日本の調査捕鯨船に体当たりして派手なパーフォーマンスで欧米のマスコミの関心を集めやすく,日本は金持ちの国であるので反捕鯨の血祭りにあげやすい。オーストラリアのグリーンピースは他国の鯨肉横領などと騒いでいないで,オーストラリア政府のカンガルー殺戮決定に反対運動をすべきである。この5月オーストラリア政府はカンガルーが増え過ぎた為に400頭殺す事を決定した。グリーンピースは氷が解けた北極海で白熊が絶滅の危機にさらされているのを見逃すのか?ロシアは白熊の生息地の氷を溶かし,海底油田,天然ガス田の開発を着々と進めている。鯨と大騒ぎするより,北極の環境破壊の方がもっと深刻である。 グリーンピースの行動が年々過激になって行く事に嫌気がさし去って行く活動家も出てきた。早くは1986年パトリック・モア-氏で,塩素系化合物の使用を止めさせ世界の公衆の健康に寄与した人物と知られているが,モアー氏はグリーンピースの幹部の中には科学的な知識を持った人は1人もいなかったと語っている。寄付金が潤沢である為か,昨年グリーンピースは会員の為の年金制度を設けた。善意でボランティアーとして参加しているサポーターの失望を買い,多くの会員が辞めて行った。彼らもグリーンピースは政治的圧力団体で,彼らの行動は科学的根拠に乏しいと語っている。先日,日新丸に乗り込みんだ反捕鯨過激派のリーダの顔を見たが,サッカーの試合で暴れるフーリガンのような野蛮な顔付きだ,自然破壊を憂える知的集団のリーダーとは見えない。叉は英国などのタブロイド大衆紙の記者のような手法をとっている。昔英国のエリザベス女王様が訪日され,伊勢志摩から東京に戻る時,新幹線でお弁当を召し上がられた。タブロイド紙の記者達は女王の車輌の外のゴミ箱を漁り,弁当箱を拾い上げ,女王様が何を食べられたか,何を残されたか探って,弁当箱の残り物を口にしていた。新幹線通路で,拾ったゴミを広げるタブロイド記者達に,女王様担当報道官が「ここは礼節を守る国日本だと云う事を忘れるな!」と怒っていた事を思い出す。 今回のグリーンピースの鯨肉横領で全く同じような事件を思い出す。1970年代後半英国のメディアは南アフリカの人種差別に抗議して国連安保理で採択されたローデシア経済制裁(Rhodesian Sanction)を破るものは誰かと犯人探しに躍起になっていた。日本企業はその経済力の為か人種差別の厳しい南アフリカでオナラリー・ホワイト(名誉白人)として別格に扱われ,他の国々は人種差別に抗議して,貿易を自制している間,日本だけ南アフリカとビジネスを続けていた。その事で世界のひんしゅくを買っていた。ある日,ロンドン・タイムスやガ-ディアンの特派員達は日本企業がローデシアと貿易取引している事実を突き止めようと,商社の担当部署に知り合いの日本人に掃除夫として化けてもらい,ゴミ箱を漁り,ローデシアとの取引伝票でも,手紙の写しでも盗み出そうと企んでいた。日本の会社はその頃すでにシュレッダーが使われていたから,そんなに上手く行くはずがないと思っていた。しかし,ある日私の勤めていたフィナンシャル・タイムスの編集長からローデシア・サンクション問題でロンドンタイムスにスクープされたとお叱りの電話を貰った。ロンドンタイムス紙の記者はゴミ箱を漁らなくても簡単に証拠を手に入れた。三井物産の会社案内に海外の子会社の活動が書いてあり,三井物産のローデシア・タバコという子会社がある事が記されていた。当時日本企業は海外の人種差別や人種問題に無知であった。人種差別に対する経済制裁を破って,金もうけに専心する醜い日本企業という,欧米のメディアが描く日本企業像にぴったりはまってしまったのであった。 余談であるが,アフリカの人種問題,部族間紛争に対し日本人はひどく無知である。これら問題はアフリカへの投資の大きなリスク要因となっている。早くから資源外交を始めたヨーロッパの国々が成果を挙げられないのも,複雑な人種問題が絡んでいるからである。アフリカの豊富な天然資源(レアメタル)の開発利権を狙って欧米各国,中国やインド等がアフリカの国々に開発援助に凌ぎを削っている。例えばコンゴのタンタル鉱石はタンタルコンデンサーとして従来の物の10分の1の大きさで,携帯電話の小型化には欠かせない鉱石である。しかし,日本の資源確保の動きは鈍かった。遅ばせながら,この6月2日,日本政府は横浜市でアフリカ開発会議を開催し,それまで減らしてきた対アフリカ政府開発援助費(ODA)をこの5年間で倍増すると大盤振る舞いを発表した。さらに洞爺湖G8会議にもアフリカ代表(食料不安の問題で)を招き,アフリカに急接近している。これは中国と競争しているからである。中国の資源外交は早かった。2年前に北京でアフリカ協力フォーラムを開催し,30億ドル相当の優遇融資を発表している。胡錦涛主席は3回もアフリカを訪問している。中国はスーダンで石油開発をしている。スーダンのダルフール紛争で膨大な数の難民が発生しているが,中国が現政権に加担しているからという国際間の批判を受けている。中国の企業は中国人を雇用し,現地の労働者の雇用改善に寄与していないと云う批判もある。 日本鯨類研究所も脇が甘かった。グリーンピースJapan の日本人スタッフはは西濃運輸に簡単にもぐり込めるのである。いくらグリーンピースの行動が日本で窃盗事件と認定されても,彼らのこれまでの抗議行動はエコ・テロリストと呼ばれるように,いつも違法行為を起しているので,海外では何の意味も持たない。それより日本の調査捕鯨の信用の失墜というダメージの方が大きい。調査捕鯨を国際捕鯨委員会の科学委員会で世界の学者達が再吟味したところ,その意義は殆ど無いという結論に達した。また調査捕鯨の非科学性は自然科学学術誌「Nature」でも指摘されているので。科学目的を逸脱しているという印象を与えてしまった。その意味でグリーンピースは目的を果たしたと云って良いであろう。 欧米人は今ごろになって日本の捕鯨を目の敵にし,自然保護,希少動物の保護などと騒いでいるが,彼らの歴史は動物大量殺戮の歴史である。何万もの動物がこの地球から姿を消した。ロンドンに英国植民地時代のインドのマハラジャの邸宅を模したボンベイ・カフェという,素晴らしいインド料理店がある(この4月にジャガーとランドローバーを買収したインドのタタ財閥の創始者が経営)。私の隣の席には本物のにマハラジャの家族が食事をしていたが,その奥さんはこれ以上つける場所がない程顔中にダイヤモンドを付けていた,その御主人も鼻や,下脣に大きなダイアモンドを付け,ネクタイピンやカフスボタンもダイアモンドであった。驚いたのは化粧室に向う廊下の壁に飾られたセピア色の写真の数々である。ビクトリア時代英国人ハンターが人間の背丈程積み上げたトラの皮の脇で,敷物のトラの頭に片脚をのせ,銃を得意そうに掲げている写真があった。一体この英国人は何百頭のトラを殺したのであろうか?その他の写真も皆トラ刈りを記念してのもので,インド人の従者がトラの手足を縛りてんびんぼう棒でつり下げている写真もある。インドばかりでなく,タイやマレーシアでも英国人のトラのハンティングは大々的に行なわれた。オーストラリアでも貴重な動物が次々と絶滅して行った。入植した人達に銃で殺されたばかりでなく,持ち込まれた犬のフィラリアやジステンパーなどに感染して絶滅したり,ヤンバルクイナの様に飛べない鳥が入植者が持ち込んだ猫に食べられ絶滅した。欧米人は羊を飼うので,牧草地がそれまでの動物の生態系を壊し,狼やディンゴは羊を襲うと目の敵に殺害された。これだけ何千種類と云う動物を絶滅させた欧米人が日本の調査捕鯨を自然破壊の象徴として批判し,自分達の過去のツケを回そうとしている事が気にかかる。彼らが行なってきた動物殺戮,自然破壊の責任を農耕民族の日本人に押し付けられたら,堪ったものでものではない。最近のTVの地球温暖化,気候変動問題の討論会で,中国人の学生が自然破壊が起きているのは,日本人が捕鯨をしているからだと勘違いした発言をしていたが,グリーンピースのプロパガンダを鵜呑みにしているのであろう。関西人はどのぐらい鯨肉を食べる習慣があるか分らないが,関東では鯨肉を食べる機会は滅多にない。一度鯨の大和煮の缶詰を食べたが美味しいとは思わなかった。鯨肉を殆ど食べなくなった日本が世界中の非難を浴びながら調査捕鯨を続行する必要があろうかと考えてしまう。 海外の特派員(特に女性特派員)の中には,日本人が動物を虐待すると思い込んでいるふしがある。日本の猫はどう云う訳か生まれつき尻尾が短かったり,途中で折れたような尻尾の猫を見かける,ある女性特派員は日本人は猫の尻尾を切って残酷だと云う記事を書いていた。新しい特派員が日本に赴任して来る度に,日本の猫の尻尾の質問をされる。TVで競馬中継を見ていて,日本人の騎手はムチをいれ過ぎる,残酷だと云う女性特派員もいた。 海外の特派員は日本女性が差別されているとの思い込みが強い,女性が不当に扱われているとかのニュースに過敏に反応する。以前NHKのニュースキャスタ-の黒田さんと云う女性が,離婚していた事が分った途端,ニュースキャスターから降ろされた。離婚したから降板させた訳ではないとNHKは弁明したが,米国の一流紙,雑誌は黒田さんに同情する記事を書いた。また2004年ボランティア活動でイラク入りした高遠菜穂子さんが人質となり,彼女の解放にかかる費用は事故責任でと語った小泉元首相の発言をきっかけに彼女に浴びせられたバッシングの嵐に海外の特派員は同情した,特にイタリアのある特派員は彼女をまるでジャンヌ・ダルクか,マザーテレサの様に扱かっていた。TVニュースを見ていたらプ-チン政権のチェチェン政策を厳しく批判して暗殺されたロシアの女性ジャ-ナリスト,アンナ・ポリトコスカヤの葬儀に,高藤さんを連れて現れ,彼女を日本の悲劇のヒロインとして紹介していた。さらにイラクで処刑されたイタリア女性ジャ-ナリストの葬儀にも彼女を連れ回し,まるで「旅回わりの一座」と云う声もあった。高藤さんは若いボランティアで戦場の子供が可哀想と云う純粋な気持ちでイラクに入っただけで,民間外交という任務感や政治的信条を持っているとは思えず,ロシアの勇気あるポリトコスカヤさんとは比べようもない。高遠さんはイタリア人特派員の勘違い,目立ちたがりに利用されたという感じがする。 柴田 |
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