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(41)ヤセ薬は弁護士を肥らせる |
世界中で4億人が肥満で悩んでいると云う。この数字は2015年までに7億人にも達すると推定されている。米国でも成人の3分の1が肥満であると診断されている。なんと米国人の72.9%がなんらかの減量ダイエットをしているという。米国の製薬会社にとって食欲を抑えたりする抗肥満薬は副作用の薬事裁判で訴えられるという大きなリスクが伴うとしても,無視するには余りにも魅力的で儲る薬のようだ。しかしながら,これまでどの製薬会社もこれだ!という決定的な抗肥満薬を開発するに至っていない。決定的な抗肥満薬の登場と思われたのがフェン?フェンFen-Phenと呼ばれた食欲抑製剤で一年に30ポンド(13.5キロ)減量出来ると唱っていたが,心臓弁膜機能への副作用,PPH肺高血圧症等の薬害訴訟で,ワイエス製薬会社は60万人の薬害被害者に,総額220億ドル(2.4兆円)の補償金を準備しているという。フェン?フェンの薬害を疑われているPondiminとReduxは市場から回収される前にすでに6百50万人のアメリカ人のお腹に収まっていた。 フェンーフェン薬害訴訟の大型裁判にもめげず,この秋アリーナ(Arena)製薬が新しい減量ピルを開発したと発表した。減量ピルはロールカセリン(Iorcaserin)という商標名をつけられ,セラトニンと云う脳内ホルモンに働きかけるもので,6ヵ月間服用したが心臓弁膜への副作用は全くなかったとアリーナ社の開発者は語った。もしこの抗肥満薬がFDA(食品医薬品局)によって認可されれば,何億ドルもの利益をもたらすミラクル薬品となる。これまでFDAにより認可された抗肥満薬はたった二つである,それらの減量効果はいまいちである。一番目がアボット社のメリディア(Meridia)は,この薬と低カロリーダイエットを併用することで1年で10ポンド(4.5キロ)減量できるというものだが,高血圧,便秘,不眠等の副作用が伴う。2番目がロッシュ社が開発したゼニカル(Xenical)という抗肥満薬で,グラクソスミスクラインがAlli(アリー)という商品名で販売している,この薬は一年で6ポンド(2.7キロ)減量出来るが,頻繁な下痢という副作用がある。この会社のウェブサイトではアリーを服用する際は下痢が目立たない様な黒地の服を着用するか,パンツの着替えを余分に持って外出する事と副作用対応策を喚起している。不快な副作用にも拘わらずアリーは一年に一億ドル売り上げるヒット商品になっている。人々は減量に絶望的で,いまだに「どうしたらアリーを手に入れる事ができるか?」という相談の手紙が毎日のように寄せられると云う。実際,米国TVドラマの中で,「アリ?の秘密購入方法を知っているから,その情報と交換に….をくれ」という女性同士の会話があった。こんなに苦労するなら,映画館でバケツサイズのカップに溶かしバターをたっぷりかけたポップコーンを食べなければ良いのに,食後のデザートにラーメン丼サイズのカップに一杯のアイスクリームを食べなければ良いのにと思ってしまう。グラクソスミスクライン社によると,アリ?を服用した人は,副作用が余りに不快なので,必然的に低カロリーの食事をとるようになるので減量に効果的だという。 アリーナ製薬のロ?ルカセリン減肥薬は現在臨床実験中であるが,中間発表ではかなり期待できる成果が上げられたと云う。この薬を最大限に服用した人は12週間で7.9ポンド(3.6キロ)減量出来たという。現在,3200人の被験者にこ減量効果が長期的に続くものかの臨床実験を行なっていると云う。そして,2010年ころFDAの認可を得る予定であると云う。 しかし,アリーナ製薬のロ?ルカセリン減肥薬は現在進行中のフェン?フェン薬害訴訟裁判の悪影響から逃れる事は出来ない。どの大手の薬品会社も訴訟を怖がってアリーナ製薬と手を組んで減量薬を開発しようとしないからだ。他の大手薬品会社はロールカセリンと類似した減量薬を開発してきたが,この数年で次々と開発を諦めたと云う,これは化学的に問題があるのではなく,心理的にフェンーフェン減量薬の大失態と結び付けてしまうからだと云う。アリーナ製薬の減量薬は脳視床下部のセラトニン受容体を刺激する,この部分は飽満感や新陳代謝を制御する箇所である。現在薬害裁判中のフェン?フェン(Fen-Phen)薬のフェン(fen)のフェンフラミンは体中のセラトニン受容体に働きかけ,心臓の外側の細胞にまで働きかけてしまい,心臓弁膜症を引き起こすと云う。しかしアリ?ナ社は同社のロールカセリン薬は脳のセラトニンのみに刺激を与えるもので,心臓には問題を起さないとしている。 大手薬品会社が減量薬の開発を恐れるのは,フェン?フェン抗肥満薬を開発したワイエス製薬のように,悪徳弁護士,悪徳医師,エコー診断士等が徒党を組ん薬害訴訟裁判を起し,まるでハイエナのように製薬会社の資産を貪り食うのを目の当たりにしているからだ。 事の起こり,1997の8月,マルク・バーン法廷弁護士が医療関係のタブロイド新聞をめくって,何かトラブルを起しそうな製薬会社がないか探していたという。弁護士にとって医療関係のトラブルは訴訟で儲ける飯の種であるからだ。そこでニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン紙上のある記事に目を止めた。その記事はミネアポリスのマヨ・クリニックで心臓弁膜症の手術をした女性5人が揃ってフェン?フェン(商品名Redux)と云う新しい減量薬を飲んでいたというものであった。バーン弁護士は「Reduxは大儲けさせてくれる素晴らしい薬に大化けする,これは集団不法行為訴訟になるから手を組まないか」と訴訟弁護士のポ?ル・ナポリに持ちかけた。 一ヵ月後ワイエス製薬はReduxとPondiminという二つの減量薬を市場から回収した。一方バーンとナポリ弁護士は9月15日のタブロイド新聞に広告を掲載し,この二つの減量薬を服用した人々に薬害集団訴訟団参加への募り始めた。即座に副作用が心配する人々や弁護士など何百人もの問い合わせが相次いだという。 バーンとナポリ弁護士は弁護士事務所を合併し,ニューヨーク・ポスト紙に2ヵ月間Redux薬害被害者募集の広告を掲載した。ロングアイランドに大きな事務所を借り,医者や看護婦,訴訟の申し立てを評価する書記官など十数名を新たに雇い入れた。この訴訟は素晴らしい裁判報酬をもたらした。バーンとナポリは5,600件の薬害訴訟を扱い,噂では10億ドル(1150億円)の賠償金を勝ち取ったという。もしバーンとナポリが一般的な弁護手数料33%をとったとすると,3億3千3百万ドル(379億円)を掻き集めた事になる。バーンとナポリ弁護士はNYのグレート・リバー地区でフェン?フェン薬害訴訟の解決のみに設立されたハ?リトン&ダンジェロ法律事務所と共同作戦をとることになる。この二つの弁護士事務所は2800万ドルを出資して,米国中に80ものRedux薬害被害者相談センターを設立した。そこではフェン?フェンを服用した者にエコー診断を行ない,病院やクリニックがRedux服用の処方箋を頻繁に出したと思われる地区にはこれでもかと思うぐらいの回数の広告を掲載した。これら薬害被害者センターでは54,000件を審査し,その内から6,000件の被害訴訟者を選びだし,さらに9億ドル(1035億ドル)の補償金を勝ち取った。 ナポリ弁護士によると,これまで勝ち取った補償金はまだまだ大きなパイの小さな一切れに過ぎない。ワイエス製薬会社は60万人の被害者に220億ドル(2.4兆円)の薬害被害補償金を準備しているのだからという。しかしながら,ナポリとダンジェロ弁護士事務所は,司法当局によってReduxというゴールドラッシュ(金鉱)を狙って弁護士,医者,エコー技士がとった戦術が合法的であるかどうか精査されることになった。Reduxという金鉱は度を越した悪党達を引き込んだ - これまで詐欺的申し立てをした容疑で26名が起訴さえた。副作用被害届の大半が合法的であるかないかのスレスレの状態であると云う。ある見積もりによると,最も重症といわれる薬害被害者の70%は,全く病状が出ず,補償金を受け取る資格のない人達であるという。この訴訟は弁護士,医師が徒党を組んで煽りたてた史上最大の訴訟詐欺の一つであると云われている。 2002年には連邦検事ハーヴィー・バートル3世は78件,3千2百万ドルの被害補償の支払いを退けた。その理由はナポリとダンジェロ法律事務所が心臓専門医を組織的に悪用,又不適切な目的のために使っていたからだという。検事側は薬害の調査や申請に携わる心臓専門医が非常にいい加減な診断をしていると非難する。ナポリ弁護士はクイーンズにあるセント・ジョンズ法律学校を1992年に卒業後すぐ自分の事務所を開設した。現在39才のナポリは3万人のRedux服用者に心臓のエコー診断を受けさせ,少しでも疑いがあれば,訴訟の手続きを進めたと云う。ワイエス製薬のバートル弁護士によると「これはまるでセーラム市(マサチューセッツ)で起きた魔女狩り事件の様だ」と不満を述べる。 法廷側も訴訟の手順を定める内部努力を始めた。法廷が任命した弁護士マイケル・フィッシュベインは1999年にワイエス製薬はフェンーフェン服用者の集団訴訟補償のために,補償の上限をつけ37億5千万ドル(4,312億円)の信託を設けた。フィシュベイン法廷弁護士によると,心臓弁に深刻な被害を及ぼしたと云う重大な薬害訴訟の場合でも,その70%は医学的に根拠がなく,不当なものであった。それは,請求者(原告)が全くなんの症状を示さないからである。こんな状態の原告に補償金を払い続けると,信託の資金が瞬く間に底をつき,本当に重症な患者が出てきた場合支払えなくなるとフィッシュベインは心配する。彼は度を越した詐欺的請求は受け付けるべきでないと云う。 法廷が任命した,心臓専門医のジョセフ・キソロ医師によると2004年1,000件の心臓のエコー写真を再調査してみたが,「今まで何千人もの人々が実はなんでもないのに,心臓弁に問題があると信じ込まされていて,詐欺的訴訟に加担している」という結論に至ったという。。キソロ医師によると,エコー撮影は心臓の弁膜に問題がある証拠写真をとる為に機械を少しいじるだけで簡単に出来ると云う。ナポリとダンジェロ弁護士は1999年にフェンーフェン集団訴訟で,全国80カ所に薬害相談センターを設けたが,大抵はホテルの部屋に間に合わせのエコー機械を運び込み,そこががハイウェイの騒音が響く部屋であろうと構わず,何千人もの患者をエコーで走査した,すべて濡れ手に粟の弁護料を稼ぐ為である。ナポリ法律事務所の看護婦はエコーの技術者に弁護士に都合のよいエコー写真をとるように指示していたという。カンサス市の女性心臓専門医リンダ・クローズは患者を全く診察せず,叉患者の病歴も聞かず,15,000-20,000人の患者を診断をしたという。彼女はアンジェロ法律事務所から10ヵ月で250万ドルの報酬を受け,FBIに取調べられている。リンダ・クローズ医師の薬害患者を大量生産するやり方は自動車を最初に大量生産したヘンリー・フォードも真っ青にする程大量自動生産だと法廷判事は語る。 ワイエス社は60万人の薬害被害者に220億ドル(2.4兆円)の賠償金を払う準備をしているという。しかしナポリ弁護士によると,心臓弁膜の病気は進行性で,何年もかかって,本格的症状が現れる。だからこれから先,何千人もの患者が突然現れ,薬害被害者の第三の波となって,ワイエス社の悪夢となって襲い掛かるであろうと語っている。昨年ナポリ弁護士は法廷が認めたワイエス製薬の補償金信託の上限である37億5千万を取り外すように請求する裁判を起したが,その要求は却下された。ナポリ弁護士は補償金信託の上限を外せば,ワイエス社はたちまち補償金支払の増大で,自己資金が底を尽き,破産に追い込まれるであろう事を目論んでいる。破産しても,その清算資産を売ることでまだ儲ける事ができると目論んでいる様だ。ハゲワシのような訴訟弁護士軍団は破産して屍体になったワイエス社でも,その資産を売る事でまだ儲けるチャンスがあると考えているのだ。 (終)
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