ジャーナリストのパソコンノートブック
(38)似ているもの、似ていないもの
  米国のサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)問題に発した米国株の急落は世界中に信用不安をもたらした。米国では一般的に、映画女優とタクシーの運転手が株を買いはじめると相場は急落するといういわれがあるという。日本ではOLと家庭の主婦が株投資だと騒ぎはじめると、相場は反落するという例えがあると証券会社の人が教えてくれた。 
  米国や英国の株式市場には季節的な格言がある。英国では「Sell in May and go away」(5月に株を売り、手じまいして、田舎にある領地に行ってしまう)と云う格言が良く用いられる。英国の金融市場でビッグバンが起きる前は、株式投資を専門にする人々はカントリー・ジェントルマン層の人々が多く、投資家の数も多くなかった。五月に株を売り払い、田舎に持っている領地に戻り、九月までの数カ月夏休みをとると云う習慣があった。私も以前英国の証券会社に働いている友人のスコットランドのインバネス近く領地でのディアー・ストーキング(鹿狩り)に招かれたことがある。男達は領地内の荒野を何日も鹿を追う。撃った鹿を持ち帰るためにロバまで用意していた。夏でも寒い荒野で野営をしてまでも、地面を這い、鹿に忍び寄る(ストーキング)、つくづく、彼らは狩猟民族なんだと思い知らされた。このように夏休み期間は相場は閑散とする。ビッグバン以降の英国の証券会社は全て米国、ドイツ、オランダなどの証券会社に買収されて、英国証券マンの優雅な慣習は無くなったが、「Sell in May and go away」という格言だけが残っている。米国でも、夏休みは五月末のMemorial dayから九月の第1週末のLabor day までが公式な夏休みだと云われているが、ネット取引が活発な現在、旅行先でも、田舎にある館でも株取引が出来るため、夏休みも定義も曖昧になってきた。
   しかし米国には一つだけ季節的行動を示す確定的な格言がある。 "Sell'em off on Rosh Hashanah and Buy 'em back on Youm Kipper" (ユダヤ教の新年ロッシュ・ハッシャナーの日に株を売り払い、ヨウム・キップールの償いの日に株を買い戻す)と云うもので、ユダヤ教の新年は9月に始まり、年によって違うが、今年は9月22日が元日であり、新年休みは10日間続き、今年の10月1日のヨウム・キップールの償いの日に休みは終わる。従って、ユダヤ正教の信者はこの10日間株の取引をしない。ユダヤ人はウォール街の株取引で大きな勢力を占めてるので、ユダヤ人投資家が留守の9月の10日間は株式相場は弱含みになると云われている。  
    表現の違いこそあれ、英語と日本語で似ているなと思うのは主婦の浮気のジョークである。 英国のパブのカウンターでよく耳にするジョークに「僕には子供が2人いるけれども、どうも下の子の顔が近所を回るミルクマンに似てきた」と云うものである。英国ではゴルフのカートのような白い車で白いつなぎを着たおじさんが瓶やカートン入りの牛乳を配達する。大抵はテラスハウスの台所側の庭に面した小道に車を止め牛乳を配達する。ジョークなのか、本当に悩んでいるのか、ミルクマンの話は良く耳にするので、ミルクマンはどの様な男か観察してみたが、彼らは大抵はぶよぶよに肥った中年男である。こんな男と浮気するなんて英国の主婦は趣味ワルーと思ってしまう。ミルクマンを主題にしたポルノ漫画、映画が沢山出ていると云う。ミルクマンは狭い地域を担当する、この話しが本当だったら、そのワン・ブロックにミルクマンにそっくりな子供が多く誕生することになる。そこで英国駐在の日本のサラリーマンに日本にもミルクマンに相当するジョークがあるか聞いてみたところ、日本には「洗濯屋ケンちゃん」というポルノビデオがあったという。1982年に裏ビデオの初期の作品として作られ、人気が出たと云う、現在絶版。日本では子供の顔が洗濯物を集配にきた若い男ケンちゃんに似てきたなんて云うジョークさえ聞かれない、やはり、裏ビデオの世界だけのことであろう。日本では暇を持て余している主婦にはホストクラブがある。日本の主婦は仕事が忙しい御主人に構って貰えないためか、ホストに話し相手をしてもらうだけでも満足だと動機としても、随分けなげであった。私は日本で最初にホストクラブに出かけた女性だと自認していると云っても、日本最初のホストクラブの正式開店前日米国のABC TVの取材で訪れた。そのホストクラブは麻布台にあり、赤いカーペットの階段を降りると50名のホストがリハーサルとして迎えてくれた。米国人の支局長が、私に有閑婦人のお客になる演技をしろと云う。私が吸えないタバコを手にすると、両隣のホストがライターの火を付ける。支局長が自分の分厚い財布を貸してくれて、私が自分の財布からお札を出して支払をするようにと演技をつける。支局長が演技を付けている写真があるが、私は当時おかっぱ頭で若すぎる、どう見てもホストを指名する有閑マダムにはみえない。当時のホストと現在の金髪ロン毛の軽薄な新宿のホスト達とは隔世の感がある。当時のホストは30才以上で、ポマードで髪をテカテカになで付けており、私には随分ダサク思えた。社交ダンスが出来ることがホスト採用の条件だったという。日本の主婦は結婚前はダンスに連れていってもらっても、結婚後ダンスをする機会がない、客の大半はダンスをしたくて訪れるのではないかという事前市場調査による。だから、店に入ると直ぐ、マネジャーが数人のホストを呼びつけ、客に似合った背丈のホストを選ぶ、ダンスがしやすいようにだ。私はそれ以後ホストクラブには足を運んだことはない。

     欧米人が日本人に関して不思議に思う事の一つに、日本の親は子供の教育や習い事に凄くお金を掛けるのに、歯並びに関しては全く無関心であることだ。第二時世界大戦中、日本人に対しての欧米の差別的な風刺画は黒ぶちの丸い眼鏡を掛けて、げっ歯類ような大きな前歯を2本出している人物が典型的な日本人であった。昔の様に金歯をしている人は見かけなくなったが、相変わらず、歯並びに関して日本人の関心は薄い。ある時英国人のビジネスマン同士が新任の英国人の噂をしていた。ここが英国人達の嫌らしいところであるが、彼らは新任のスタッフのアクセントで出身地域、階級を推測していた。「ところで、彼の歯を見たか? 歯並びからして、一度も歯列矯正をした事がない様だ。かなり貧しい家庭の出身だと思う」とお互いの人物評価に納得していた。昨年渋谷で整形美容医院を大成功させた母親から、短大生の娘を誘拐した事件で、母親と娘の豪華な住宅、ブランド物の衣装、何台もの高級外車など優雅なセレブ生活までもがTVニュースで流されていた。これを見た米国の女性ジャーナリストは、「米国ではこの母娘を決してセレブとは呼ばない。娘さんの歯並びを見た?凄い出っ歯で、笑うと歯茎の上まで出てしまう。母親が美容整形の仕事をしていながら、娘に審美歯科の治療を受けさせないなんて、なんて可哀想な娘!」と云っていた。米国でも歯並びに関してはかなり厳しい、米国ビジネス界でも歯並びが悪いと出世できないという云われている。年を取ってからの歯列矯正は時間がかかるので、若い内に金属製のブリッジをつける。米国の高校の卒業写真を見た事があるが、女子学生ばかりでなく、かなりの数の男子学生も歯列矯正のブリッジを光らせている。クリントン元大統領の娘チェルシーも、父親が大統領当時、歯列矯正のブリッジを装着していて、米国で最も醜いティーンだと云われていたが、最近母親のヒラリー・クリントンの大統領選挙運動の応援をしているチェルシーはかなり淑やかな女性に成長していて、歯列矯正をしていて良かったと思わせる。数年前、強烈に発達した下顎と歯並びの悪い女優さんを見つけた、米国にも歯列矯正していない女優がアカデミー主演女優賞を取る事があるんだと驚き、調べてみた。クリント・イーストウッド監督の「ミリオンダラー・ベイビー」で女性ボクサー役を演じ2004年アカデミー主演女優賞をとったヒラリー・スワンクで、2000年に続いて2度目のオスカーを取った女優さんである。彼女自身、自分が労働者階級の出身で、田舎で母親とトレーラーハウスとジャンクフードで育った事を売り物にしていた。最初のアカデミー賞を取った映画の出演料はたった3000ドルで彼女は医療保険にも入れなかったと云うから、歯列矯正どころではなかったであろう。
    
   1970年代頃から、出っ歯だとか、肌が黒いとか人種の身体的特徴をあざけ笑ったりする事は差別的だと自粛しようという風潮が世界的に広まった。1970年代に世界中で愛読されてきた絵本「ちび黒サンボ(The Story of Little Black Sambo)」が差別的であると廃刊になった。これはスコットランドの主婦が100年前に書いた絵本で、差別を意図するものでなかったが、サンボと云う名前自体が植民地時代の奴隷の名前で蔑称になると云う訳だ。日本ではカルピス乳酸飲料の商品マークがとばっちりを受けた、パナマ帽子を被り、黒い大きな目、分厚い唇など黒人の特徴を示したマークが差別的だと取り止めになった。しかし、海外では日本人の音を立てて食べるマナーに対しては、厳しい批判、時によっては嘲りを耳にする。特にスープや、麺などを啜る音に対しては欧米の国々、中近東、インド、パキスタンなどでうるさい。つまるところ、汁麺を食する日本、中国、韓国以外の国々では音を立ててスープを啜るのは下品な食べ方と云う事になる。あるTVのトークショーで、エジプト人が中東でもインドでも、音を立てて食べるのは犬の様だと忌み嫌われると語っていた。日本人の私からしたら麺の汁を啜らないで食べるなんて、美味しさが半減するト思う。以前英国の銀行家達とスキーに云った帰り、駅のプラットフォームで電車が10分間停車するという。お腹がぺこぺこな我々に駅蕎麦屋の匂いが刺激的であった。英国人達もプラットフォームで月見蕎麦を注文した。問題は彼らの食べ方である。蕎麦を口の中でもぐもぐと音を立てないように噛んでいる。彼らは日本人は蕎麦を飲み込んでいると驚く。私は日本蕎麦は喉で味わうのだから、飲んで当然だとやり返した。結局、英国達は停車時間内に蕎麦を食べ切れずに残した。彼らは日本蕎麦をまずそうに食べるチャンピオンである。しかし、これが海外となると問題だ。以前パリ、オルリ?空港の団体待合所で、100名位の日本人団体客の為に旅行会社が味噌汁とおにぎりをサービスをした。味噌汁と云っても、お椀に粉状の味噌、乾燥ワカメとお麩が入っていて、やかんで熱湯を注いでいくだけのものであった。しかし、100名の日本人がズルズルと味噌汁を啜る音はかなり凄い音になる。悔しいのは、空港でトイレ掃除をしているアルジェリア人、アフリカ人(旧フランス植民地)達が、日本人は野蛮人だ、まるで動物みたいに音を立てて食べていると、啜る音の真似をしてのを見た時だ。ロンドンやパリの高級レストランでも然りである、日本人の団体客はメニューで皆同じ料理を注文したがる。10名全員がスープを啜る音は目立つ、日本人が音を出して食べる事を知っている意地悪な英国人が、自分は日本人客の隣のテーブルで彼らの出す音で食事がまずくなったなどと、店に文句をつけるのを目にした。日本人の観光客は海外ではスープなどの汁物は出来るだけ我慢する。汁ものを音を立てて食べてよいのは、各国にあるチャイナタウンの中国料理店で盛大な音をたててラーメンを啜ったらどうだろう。
      (終)


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