上海モーターショーが4月22-?26日まで開催された。驚いたのは中国メーカーの自主ブランド車と売り出した車の外観はトヨタ車や本田車と余りにも酷似していることだ。新聞によっては「上海モーター盗作ショー」などと揶揄している。米国フォーブス誌は2004
年2月号で中国の自動車メーカーは米国の車の全てのデザインを盗んだと云う記事を読んだ記憶があるが、現在欧米で人気のある車は米国車ではない、環境保護と省エネ技術に優れた日本車である。中国の自動車メーカーは技術の高さでは、競合出来ないが、せめて人気のある日本車のデザインだけ盗作しようとしたのではないかと勘ぐりたくなる。「奇瑞汽車」というメーカーは初の国際市場むけ自主ブランド車 「A1」を発表したが、価格は53,800元(827,000円)で、「中国の価格で世界水準の車を提供出来る」と低価格で国際競争力があると強調している。類似しているのは展示された車ばかりでなかった。上海モーターショーとたった2日違いで同じ浦東地区で、上海オートショーと名前と会期が酷似した展示会が開催されたことだ。台湾や中国の部品メーカーの中には間違えて海賊版オートショーに展示したところもあるという。
中国の知的財産権の侵害は止まる事を知らない。NECは企業アイデンティティまで盗まれてしまった。NECの製品の海賊版が中国や台湾で製造されたばかりでなく、NECという会社自体のコピーが作られるという見事なID盗難事件であったとインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙やニュ?ヨークタイムス紙は伝えている。中国、台湾そして日本人からなる犯罪者グループは 日本の NECを代表して、中国と台湾に12もの工場を作り、NECブランドの海賊版を製造した。それらは本物のNECが「全般に良い品質」であると認める程の製品であり、NEC本社から委託されたというR&D部門の重役というニセ名刺をもった犯罪者達は50品目もの新製品をNECブランドとして開発している。これらの新製品の中にはホーム・シアター装置、MP3(デジタル化された音声を圧縮する音声ファイルフォーマットの一つ)、パソコン端末機などがあり、それらの製品にはニセのマニュアルや製品保証などの書類まで用意するという念の入れようであったという。犯罪者は2004年頃から活動を始め、本物のNECがこれを知ったのは2006年になってからだという。NECの内密調査により、首謀者が逮捕され、海賊版を製造していた工場は各々の土地の当局によって閉鎖されたと云う。
上海モーターショーの日本車デザイン盗作は中国では知的財産権は確立しておらず、中国メーカーはデザインなどのR&D(研究開発)を出来るだけ切り詰めるというのがその基本である事を示している。折しも、4月20日、米国政府が中国を「知的財産権の保護が不十分」として「世界貿易機関」(WTO)に提訴した。過去10年間米国政府は中国に対してコンピューターソフト、CD、映画等の海賊版の取締りを要求してきたがその都度、努力すると約束はするが、北京、上海の通りは海賊版DVD、海外ブランドのコピー商品で溢れている。中国政府はこの3月15日を海賊版商品の取り締まり日と宣言して、警察官が一斉に屋台等から偽物のハンドバッグ、ファッション用品、DVDなどを押収している。その様子をTVニュースで流し、これからはグッチ、プラダなどのブランド品はは直営店でしか買えませんとアナウンサーは伝えているが、これはWTOの調査を意識して、中国政府の努力姿勢を示したものだ。しかし、屋台販売業社は海賊版の取締りは数日しか効き目がないと云う。
一方中国当局は海賊版は当局が取締りに躍起になればなる程販売形態が巧妙化して地下に潜るという。中国国家版権当局が全国で摘発した版権侵害は昨年15,590件で、押収された海賊版DVDや図書は7,300万件以上、知的財産権民事裁判は一審案件が14,219件で、昨年より5.92%増であった。こういうデーターは中国側が知的財産権侵害摘発への努力姿勢を示すものだが、取締りを逃れようと販売拠点がマンションなど、地下に潜る傾向が出てきたと云う。
中国政府にとって、DVDや海外ブランド製品のコピー商品取締りだけで米国がWTO提訴を取り下げてくれれば、それ程楽な事はない。中国政府自身が情報産業分野で知的財産権の侵害に手を貸しているふしがあるからだ。中国政府の本音は、いつまでも外国に特許料を支払い、低コストの生産下請けに甘んじている現状から脱却しなければならない。独自技術開発が必要だ、その為なら、知的財産権侵害も厭わないというものだ。中国政府は中国に進出したがっている企業が魅力的な新技術をもっていると、進出申請に面倒な法的手続きを持ち出して、審査に異常に長い時間をかける、その間にその技術を盗み、中国国内の企業に盗んだ新技術で新製品を開発させ、「国内自主開発」だと発表する。こうすれば海外のメーカーに特許料を払わずに済む。その良い例として「Redberry」事件が引用される。「Blackberry」はカナダのResearch in Motion(RIM)が開発した携帯端末およびメッセージングサービスであり(日本でもNTTドコモが法人向けに提供する予定である)、欧米では.ビジネスマンの必需品である。RIM社はこの新しい技術を中国に紹介しようと中国当局に申請した。しかし当局があれやこれや技術的な欠点や申請書類の不備を指摘して、審査に異常に長い時間をかけた。RIM社がやっと官僚的な面倒臭い手続きをクリアーした時、目にしたのはBlackberryのクローンと思われる、「Redberry」という携帯端末が中国のUnicom (ユニコム) 社から大々的に発売されていたことだ。このUnicom社は中国政府が資本の大半を握っている。Blackberryから盗み取った携帯端末のソフトとネットワークを中国語版に焼き直す為に時間を稼ぐ必要があり、わざとRIM社のBlackberry申請に難くせをつけ、審査を遅らせたと海外のメディアは伝えている。
私はビルメンテナンス2005年11月号で中国政府が世界で最も進んだインターネットのファイア?ウォール・システムを構築し、国民のインターネットのやり取りをモニターし、どんな情報にアクセスしたか監視し、海外のサイトへのアクセスも禁止していると書いたが、このシステムの役割は国民の情報へのアクセスを監視するばかりでなかったのである。中国当局は国内で事業展開する海外企業のe-メールをモニターする為にも使っていたのである。ある米国のビジネスマンに聞いた話しでは、彼の会社は中国の国営企業と合弁事業について交渉を重ねてきた。毎朝驚かされるのは、彼が前の晩遅くまで米国の本社とe-メールで話し合い、本社から戻ってきたメールの重要事項を中国関係者はすでに知っていて、毎朝そこから交渉をスタートする事であった。中国政府は明らかにe-メールのメッセージを傍受していたと彼は云う。
中国の法律では、中国でビジネスをする海外の企業は通信を確かなものとする為に中国のencrypton (暗号化)システムを利用しなくてはならないと云う規定がある。幸いインテルだけはこの法律の適応を免れている。Encryptonシステムは通信を確実なものにするために必要だとされているが、中国の法律施行庁は外国の企業の全てのe-メールに目を通し、それをファイルしている。その過程で、新しい技術があればそれを盗み、同じ分野で競争している中国の企業に技術情報をリークするのである。中国で技術情報を盗まれたカナダの企業は「中国と云う世界で一番大きな市場は海外の技術関係の会社を巧妙にさそい込み、技術を巻き上げるならず者の国家である;もし貴方の会社の技術がくすね取られ、その技術で製品が大量生産され、しかも中国政府の後押しで大幅に割り引きされた価格で売られたら、中国でのビジネスで儲ける事は出来ないばかりか、全くの時間の無駄になった」と怒っていた。
今年3月末に中国で最高時速250キロで走る高速鉄道車輌「和諧」号が上海-杭州、上海?南京間で運行を開始した。TVの画面で見る限り日本の新幹線にそっくりであるが、中国メディアは日本の東北新幹線「はやて」や、カナダ、フランスなどの海外の技術を導入して生産されたとは一切触れていない。中国政府は「国産技術の成功」と成果を称賛している。2003年頃日本の新幹線方式の採用が有力視されたとき、日本と聞くと化学反応を起す反日チルドレンからの導入猛反対の運動が起り、「国産技術の成功」と云わざるを得ないと関係者は云う。川崎重工や日立製作所、JR東日本などの日本連合は北京?上海間を結ぶ高速鉄道(2010年開業)の数千億円規模の車輌受注を期待して来たが、昨年3月中国鉄道部のトップから突然「車輌はこれまで吸収した事を基礎に、完全に自主開発する」と言い渡されたという。
知的財産権が確立していない中国に、最先端の技術を中国に持ち込まないと云うのが大手外国企業の鉄則であると云う。そう言う技術は数年の内に盗まれてしまうからだ。しかし先端技術を持つ外国企業の中にも情報保護対策を強化して、財産権の保護に成功した会社もある。台湾のコンピューター・チップ設計会社は完成品から設計内容を分析しにくい設計を採用して、財産権を保護している。あるアメリカのソフトウェア?会社は中国のオフィスでのコンピューターにリムーバブルディスクを付けず、USBポートが使用出来ず、社外へのe-メール送信が出来ないなどの徹底した情報保護をおこなっている。
(終)
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