ジャーナリストのパソコンノートブック
(21)ブログが中国のインターネット規制に風穴をあける
ビル・メンテナンス  2006年5月号

本誌の昨年11月号「中国のインタ?ネット攻防」で中国政府が世界で最も完成度の高いインターネットのファイアーウオール・システムを作り上げ1億1千万人のインターネット利用者の情報管理を強めていると書いた。グーグル、ヤフー、マイクロソフトなどの米インターネット企業も中国政府のインターネット検閲に協力するように要請された。グーグルは今年1月24日に検索/ニュースサイトを立ち上げたが、中国政府の要請に従って中国政府を批判する言葉や、天安門事件、台湾、民主主義、自由と云った言葉やホームページを検索できないようにしている。ヤフーは昨年地方公務員の腐敗をネット上で告発した事で、国家転覆罪で懲役10年の判決が下された師濤氏(Shi Tao元公務員)の情報を中国秘密警察に提供していた。マイクロソフトは自社のMSN SpacesというブログにMichael Antiという英語のなまえで書き込みをしていた中国人著明ジャーナリスト趙京氏(Zhao Jing) が民主主義とか、自由と云う言葉を使っていたという理由で、問題のブログを今年一月末に閉鎖した。 
   米国企業が中国政府の情報管理に協力している事は「表現の自由」の侵害につながると米国議会や市民団体から批判が集中している。米国人にとってインターネットは自分達が開発したもので、本来自由で豊富な情報を提供すべきものという思いが強い、しかし米企業の技術が中国で人権の侵害に使われている。米国のネット企業は「表現の自由」「人権」まで侵して金を儲けようとしているのかと非難を浴びせかけた。米国下院外交委員会は2月15日中国当局のインターネット規制をめぐる公聴会でヤフー、グーグル、マイクロソフト、シスコシステムの代表者を喚問した。「自社の利益を優先して、中国側に情報提供したおかげで、49名がネット上で反体制運動家として、32名のジャーナリストが政府に批判的な意見をインターネット上で広めたと云う罪状で懲役刑に処されている」と非難した。この日の公聴会は延々7時間これら協力企業への質問に終始した。驚いた事に、ヤフーは警察当局に情報提供したジャーナリストや反体制運動家がどのような罪に問われ、極地の強制収容所に送られたか、全く考えてみた事もなかったと答弁したことだ。シスコシステムはウェブサイトのフィルターリング(情報の濾過)を可能にする技術を開発し、中国警察当局はこの技術を使って、人権擁護家、宗教家等をあぶり出し、逮捕、拘束、拷問に使っている。シスコの技術者は3万にも上るネット監視専門のサイバー警察官に反体制運動家を見つけだす技術実習までしていたと云う。
  米国議会で民主党のティム・ライアン下院議委員(人権議員連盟)と下院人権問題委員会のクリストファー・スミス委員長(共和党)が米国ネット企業の中国での活動を制限する法案の制定を目指している。
   昨年検閲に批判的な意見を述べた事で北京大学教授の職を解かれた焦国標(Jiao Guobiao)博士が今年三月に訪日した、「中国共産党のプロパガンダ本部を打破する」という近著の出版を記念しての来日であった。焦国標((Jiao Guobiao)博士は反体制派としてシンボル的な存在で、国際世論の監視の目が集中しているにで、中国政府としても、逮捕、監禁、強制収容所送りは出来ない、そして日本への渡航も文句を付けられなかったと語っていた。焦国標博士の話を聞く機会があったので米国のインターネット企業が中国市場から引き上げてしまう可能性に付いて質問してみた。博士は「米国のネット企業は中国から引き揚げないで欲しい、中国の法律に従ってある程度制限される情報はあるかもしれないが、米企業の自由で豊富な情報は何ものにもとって代われない。米国ネット検索企業が中国から引き揚げれば、中国政府が自前で検索会社を立ち上げ、共産党政府に都合の良い情報のみ提供することになり、情報操作になりかねない」と語っていた。
   中国政府が"Golden Shield"というファイア?・ウオール・システムを作りあげ、3万人のサイバー警察官を使って、インターネットの情報の流れを完全に掌握し、ヤフー、グーグルなどの米国の大手ネット企業までもが中国政府の軍門に下った。これまで押さえ付けられて欲求不満気味のネット利用者は一斉にブログにはけ口を求め始めた、彼らはブログに書き込んだものがサイバー警察にどう解釈されようとかまわない。北京のBonkeeというブログサービス会社は一日に5万人の新しいブロガ-が申し込み手続きをすると云う。都市部の若いエリート層で、技術にも明るいブロガー達はサイバー警察のモニターより常に一歩先に進んでいる。これまで中国の著作者は著作者協会に属し、共産党を讃美する文章を書くように強制されてきたが、ブログでは個人が発行者である。各々のブロガ?は自分が政治的な活動家だとは思っていないが、ブログ上で議論する事で国を改善していけると思っている。昨年末に中国全土で3千万人がブログ登録し、前年の2倍に増加した。専門家によるとその中で活動的なブロガーは数百万人であるという。ブログサービスを提供する会社も100社に上っている。一番人気のあるブログは"keso"というサイトで、IT やWebについて書き込まれ、一日一万人のビジターがあるという。その他のブログは個人の日常生活、セレブのゴシップなどこれまで中国のメディアで伝えられなかった事柄が書き込まれている物が多い。 軽薄なブログも沢山ある。"LiLi"というブログは元女性編集者は2003年から彼女の性的冒険を事細かに書き込んだもので、一夫一婦性の観念を完全に打ち砕くものである。このスキャンダラスなブログに一日一千万人のビジターがあるという。
  中国のインターネット利用者は一億一千万人に上るといわれ、共産党のプロパガンダ担当者はサイバー警察官を使ってインターネットの検閲に忙しく、ブログの検閲まで手が回らないというのが実情だ。昨年広東の田舎のデモ参加者に警察が発砲したことで、あるブロガーが政府による正式調査を呼び掛ける手紙を書いた。上記のBonkeeというブログサービス会社は手紙そのものを紹介するのを断ったが、その事件に付いてのブログ上の議論は掲載したと云う。また北京の新聞編集員が、自分の上司の編集長が記者達の報道に厳しい検閲を加えると率直な意見をブログに書いたところ、政府は即この編集員をクビにした。しかしこの事件がかえって人々の関心を喚び、政府の検閲に対して反発する意見がブログ上で過熱し、党の幹部が検閲を緩やかにするようにと介入するまでになったという。これはブログが草の根ジャーナリズムとしての力を持ち始めたとことを示している。人々はブログを使って社会問題を解決しようとするようになってきている。ある反政府活動家が自分のサイト上で政府の役人が女性達に産児制限させるためにIUDという避妊具を強制的に着用させたと云う記事を書いたが、そのサイトが閉鎖される事は確かなので、この非人間的事件を広く知って貰う為に、彼は同時に10以上のブログに同じ記事を書き込んだという。同じ事件でもブログ上で個人が、時には感情的に、鮮やかに暴いているが、これと対比して国営の新聞記事は味気なく、つまらないものになっている事に人々は気がつき始めた。
   中国のブログサービス会社は政府から検閲に協力するように要請されている。そして政治的に過激な「鍵」となる言葉を用いてフィルター(濾過)している。例えばJune4th (叉は6/4)1989は天安門事件を示すので使用禁止。この濾過用語が使われていれば書き込む事が出来ないか(空白)、その言葉が黒塗りになるという。ブログサービス会社は政治的に過敏な投稿には気を付けていて、時には自主的に削除する事もあるという。政府の方もブログを検閲する担当者がいる。ブロガーが政府を動かしたのは、ハリウッド映画の「さゆり(日本向け題名)、英語題名はMemories of Geisha (芸者の思いで)である。この映画はハリウッドが考えた芸者の話で、中国系アメリカ女優チャンツイー(AsianというシャンプーのTVCMに出ている)が主演の芸者を演じていて、オスカー賞にもノミネートされた大作である。従って日本は何もケチを付けられる事はないのだが、ブログにすごい数の狂信的反日の書き込みが続き、中国政府は昨年の4月のような民族主義的反日デモが発展する事を恐れて、この映画に関してのブログを閉鎖した。これ程中国政府の若者に対する反日教育は徹底している。 
   大抵はブロガーが頭が良くて、頭文字だけを使い、抜け道を探している。ブロガーとサイバー警察はまるでアニメのトムとジェリーのように追いかけっこをしている状態だという。

                                         (終)

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