ジャーナリストのパソコンノートブック |
(12)X-世代、Y-世代 |
ビルメンテナンス 2005年8月号 |
X-世代 最近 "Gen-X"とか"Gen-Y"という言葉を良く見かける。これは遺伝子でもなく、ジーンズのサイズではない。最初に"Generation X" (X-世代)と云って、"Post Baby-boom Generation" (米国のベビーブーム世代を継ぐ世代)で、25才から40才までの世代を意味する。この言葉の由来を知らないと、次の"Generation Y" (Y-世代)に繋がらない。 "Generation X"(X-世代)はカナダの小説家Douglas Copeland (ダグラス・コープランド)よって同名のタイトルの小説で創作された言葉である。1991年に彼はカリフォルニアのパームスプリングスに住む三人の20代の若者を主人公にした小説を書いた。これら若者は高度な教育を受けているが、それに見合う仕事が見付からない。又彼等は米国の大企業で働くことに幻滅を感じている醒めた若者である。どうせ大学を卒業しても面白い仕事が見付からないだろうと、故郷の両親のもとに帰リ、親の脛をかじるパラサイト・シングルである。起業家精神を持つ若者もいるが、大半の若者は"Numb and Dumb" (無気力で、愚か者)だと考えられているので"Generation X"は余りよい意味に使われない。 ブッシュ米大統領の選挙中のスピーチによると、"Gen-Xers"は自分自身の親の世代より暮らし向きが悪くなるのではと恐れている世代であると解釈している。最近ではただ単にベビーブーム世代の次の世代の人々と人口の統計学(demography)の分類だけに使うことが多いという。 この小説が書かれた当初は若者という意味で使われていたが、現在では中年と呼ぶに少し早い30年代の人々を指す。日本でも小説から太陽族(石原慎太郎の著書「太陽の季節」)やクリスタル族(田中康男の「何となくクリスタル」と云う著書)から世相を表す言葉は生まれたが、人口の統計学の分類に使われる程の言葉には至らなかった。 Y-世代 "Generation X"の若者がもてはやされる時期は意外に短かった。"Gen-Xers"は1965年から1976年に生まれた世代でその数においてたった1千7百万人である。その前の1946年から1965年に生まれた6千万人のベビーブーム世代や、米国史上最大の7千2百万人と云われるベビーブーム世代の息子や娘の世代に挟まれて、存在感が薄い。米国の商品開発者達は数が少ない"Gen-Xers"を見限って、7千2百万ものベビーブ?ム世代の子供達が、Xの次にYがくるので、"Generation-Y" (Y世代)と名付けて、史上最大の消費市場に商売の的を絞っている。今日の米国消費の堅調さはY世代によって支えられているといっても過言でない。また米国の不動産市場の活況もY?世代の人々が20代の半ばに入り、住宅購入年令に達する者もおり、これからの強い住宅需要を先取りしたものと思われる。Y世代はベビーブーム世代の子供達であるので、"Echo-boomers"(ベビーブーム世代の繰り返し)とか、ミレニアム(紀元2千年)世代とも呼ばれている。 今年初めに日本の金融新聞が「日本のゼネレーションYと金融」という記事を連載していたが、日本の若者に米国のゼネレーションYを当てはめるのは無理がある、米国では「Y世代」は史上最大の消費人口を背景にしているという印象を与えるが、日本の同年齢層の若者は小子化が進み、学生不足で民事再生法を申請した私立の大学が出る程、若者を当てにしたビジネスはジリ貧の様相を見せている。又同年代の日本の若者はNEET(Not in Employment, Education or Training: 職についておらず、学校にも行かず、就労につく訓練もしていない)と云われるように、米国の世代間で史上最高の教育を受けていると云うY世代とは正反対である。 米国の若者の消費動向と価値観は日本の同年代の若者と大きく異なっている。 Y世代は米国人でありながら、育った環境がそれまでの世代と大きく異なっている。人種が多様化している事と、シングル・マザーや離婚した母親を持つ家庭が多い事である。Y世代の若者は自分達の親や、X世代の人々が仕事の為に自分達のライフスタイルを犠牲にするのを批判的な目で見てきており、同じ間違いはくり返したくないと思っている。彼等は自分のライフスタイルに合った仕事しかしない。彼等は技術的に洗練されており、高度の教育を受けている。Y世代は企業に対しての忠誠心はなく、職場を次から次へと変える若者である。企業側も一つの職場に1年以上勤めてくれる若者がいればありがたいと思っている。Y世代は仕事と生活をはっきり区別する。彼等は5時に仕事を終えたら、自分自身のライフスタイルを追求する、それが自営業の様な仕事である場合もある。 パーティなどで、Y世代の人々は現在どう云う仕事をしているなどと云う野暮な会話をしないで、サーフィンをやりたいとか、ヒマラヤにトレッキングに行きたいとかの会話を好む。 企業側も雇用戦略を練るのに苦労している。会社勤めに自分の人生を縛られたくないY世代と付き合っていくには 柔軟性と経験の多様性が鍵となるという。 あるビジネススクールでは4ヶ月から6ヶ月毎に異なった部門の仕事を次から次と経験させるプログラムを実施している。仕事に対してポートフォリオ(目録書)を取扱うような準備が必要だと云う。Y世代の就労者を人材のプールとして扱い、仕事はこれまでの様に一つの事業部に配属させるのではなくて、一つの仕事を請負契約させて、その仕事が完了すれば人材を引き上げて、他の部門に回す雇用方法を提唱している。このような雇用の仕方で、Y世代の就業者が会社を辞めたいと言えない環境をつくることが出来ると云う。 Y世代の若者を雇うには企業ブランドのクールさ(かっこよさ)が不可欠である。 これまで以上にブランドの評判が大切になってくる。企業の社会的責任(CSR)も必要不可欠である。もし、企業文化が合わなかったり、企業政策が納得のいくものでなかったり、馬鹿な雇用者がいたりしたら、Y世代はさっさと会社を辞めていく。企業側はY世代の就労者に会社に必要なある一定の技術力を持たせようとするが、生産ラインなどで訓練を受ける事を嫌がるので技術水準はバラバラであるのが企業の悩みであるという。Y世代が望むものはあらゆる仕事の可能性を探究できる仕事、仕事以外に活動的なライフスタイルを追求出来るような柔軟性のある環境であるという。 Y世代は巨大な消費市場に見えるが、彼等の消費趣向を見誤るとブームに乗り損ねる。その良い例がナイキである。従来のブランド・イメージやセレブを使ってのマーケティング戦略を取ろうとしたが、Y世代の若者はマイケル・ジョ?ダンが履いていようが構わない。巨額の広告費で、有名人を使うナイキのブランド・イメージ構築作戦はY世代の親や、X世代には大成功したマーケティング手法ではあるがY世代にはそっぽを向かれている。さらに悪い事にナイキの製品がベトナムなどのアジアの途上国の低賃金の女性を使い、劣悪な労働環境で製造されていると米国の有力紙、TV番組で暴露報道された為にCSR(企業の社会的責任)を子守唄のように聞いてきたY世代の若者にボイコットされている。 Y世代は巨大消費市場であるが、商品のブームに火をつけるのは至難の技である。それまではTV一辺倒であったメディアがインターネットの出現で細かく、多岐に渡るようになった。Y世代の若者はTVのCMでなく、インターネットで商品情報を得ていると云う。今日10代の若者にアプローチしたい企業は、よくデザインされたウエブサイトを作るのが成功への第一歩であるという。アメリカン・エアーラインは大学生にネットで割安の航空券を買えるとEメールを送り続けるマーケティング手法で成功した。ハイスピードのインターネット情報で、Y世代のファッションは種々様々で、目まぐるしく変わっていく。それであるから、今年のファッションを流行させようと企んだ商品開発者の宣伝文句を鵜呑みにはしないし、有名ブランド名にも動かされないという。Y世代は自分達の親が、TV CMのイメージ戦略に踊らされて買い物をしてきたのを醒めた目で見てきた。だから自分自身で、商品の内容(どのような材料を使っているか、どの国で製造されているか)をインターネットで検索して、納得してから求めると醒めていて、可愛くない若者であり、従来のブランド・マーケティング手法をとってきた商品開発者は何も打つ手がなく、Y世代という巨大消費市場を前にして指をくわえ傍観しているしかない。 (終) |