ジャーナリストのパソコンノートブック |
(3)サイバー・マフィアによる新しい犯罪 |
ビルメンテナンス 2004年11月号 |
「ウイルスメールの削除が日課」 今年の春から夏に掛けて私の電子メールは危うくゾンビ・メールにされ、ヨーロッパを拠点とするサイバー・マフィア(コンピュータ?・ネットワ?クを悪用する犯罪者)に操られて海外のサイバー上で開設されたカジノのゆすり、攻撃に使われる所であった。今年の3月から7月初めに明らかにコンピューター・ウイルスの感染を目的としたメールが連日送られてきた。特に週末はひどく英国、オランダ等から一日20通ぐらいの電子メールが送られてきた。送り手のメール・アドレスは異なり、国も異なっていた、しかし、全て同じ形式で最重要度のマークが付いており、「ドキュメントに付いて」、「参考の為に」、「お知らせの為に」とかもっともらしい見出しの圧縮ファイルが付けてある。これら圧縮ファイルを開いたら即ウイルス感染してしまうし、叉ウイルスの種類によっては私のアドレス帳に載っている人達にウイルスを含んだ電子メールを勝手に送ってしまう可能性があり、これら汚染メールの削除が日課となった。私自身の電子メールのやり取りは外国の新聞社や雑誌社の編集部が多く、電子メールで圧縮して送ったり、受け取ったりする場合は執筆中の長い記事に限られる。それであるので現在書いている記事以外の見出しの圧縮ファイルは一切開かないで削除する事にしていた。 「ゾンビ化するメール」 その時点では自分のメール・アドレスがヨーロッパの何処でリストに載り、病的な人達が暇に任せてウイルス感染メールを送ってくると憶測していた。私は仕事柄海外との電子メールのやり取りが多くて、新手のコンピューター・ウイルスにさらされる危険が誰よりも高い、それなのにウイルスを取り除くワクチン・ソフトウェア?を使っていない、無謀だと妹によく責められてきた。実は私のコンピューターがウイルスに対して無防備である事が、格好の標的になり汚染メールの集中攻撃を受ける羽目になったのである。 このあと海外の新聞等で断片的に伝えられる事件を繋ぎあわせてみてやっと犯罪者が意図するものが見えてきた。このウイルス感染メールの送付はサイバー・マフィアが意図するものの準備段階であり、そのウイルスは私のコンピューターを自分達の意のままに動かしてゾンビ(夢遊病者の様に彷徨うお化け)状態にする事である。私にウイルス・メールを送ってきた人達はすでにゾンビ化していて自分達が知らぬ間にサイバー・マフィアに操られて私の様な無防備なコンピューターを感染させる為に動員されていたのである。私の所に送られてきたウイルス・メールの中に外国特派員協会の図書委員会のメンバーの2-3人の名前があった。図書館は良く利用するので、「借りた本が返してない」とか「書類を置き忘れた」なんて云う電子メールかもしれないと、圧縮ファイルを開いて読みたいという誘惑にかられたが、何とか我慢した。外人記者クラブで彼らにあなたの名前でウイルス・メールが送られてくると抗議したが、身に覚えがないの一点張りであった。彼らは多分自分達のメールがゾンビ化していて、他人へのウイルス・メールの拡散に使われている事を知らないでいるのであろう。この様に何十万、何百万のゾンビ電子メール群が形成されたのである。 次の段階でサイバー・マフィアの意図がはっきりする。カリブ諸国、ラスベガス、英国等ではインターネットによりサーバーにカジノ・サイトを開設しており、その市場規模は74億ドルに上ると云う。このインターネットに賭博場開帳している主催者がサイバー・マフィアの恐喝目標になった。英国のインターネット・ブックメーカーはある週末何も書いてない電子メールを何千通も次から次と受け取り、一般の顧客から賭けを受け付けるサーバーがスローダウンしてしまった。一体何が起きたか分からない内に、サイバー・マフィアから「そちらのサイトが攻撃を受けている。ヨーロッパの10ケ所にある指定された口座に4万ドル振り込め、支払いがない場合はスーパーボールの試合、ケンタッキーダービー等の競馬レース、サッカーの試合等のインターネットによる賭けの申し込みを邪魔してやる」と恐喝電子メールが送られてきた。最初の攻撃は20分で終わった。サイバー・カジノ主催者がこの脅かしを無視すれば、試合間際に何万通もの白紙電子メールが送りつけられ、サーバーは機能しなくなり、一般の客の電子メールでの賭けを受け付けられない。このサーバー攻撃にマフィアが意のままに動かせる何万ものゾンビ電子メールが総動員されたのである。私のコンピューターをゾンビ化しようとしたサイバー・マフィアは6月に行われたサッカーのヨーロッパ・カップの(ポルトガルが優勝した)サイバー賭博主催者(多分英国のブックメーカー)の恐喝を目論んでいた様だ。この試合以降私へのウイルスの感染目的の電子メールはピタリと止んだ。また他の新聞記事によると今年7月20日に英国政府のハイテク犯罪取り締まり当局がロシアの警察当局と協力してロシア、エストニア、ラトビアなどで恐喝犯三人を逮捕したという。エストニアとかラトビアはインターネット犯罪に対する取り締りが緩いので、インターネット関連の犯罪の温床となっている。エストニアには音楽のダウンロードでは世界一の無料音楽配信会社Kazzaがあり、世界のレコード業界を窮地に追いやっている。これ以外に中国の上海のグループ、中東のグループを含め少なくても5つのサイバー・マフィアグループが国際的に運営されているサイバー・カジノを恐喝していると云う。 サイバー・マフィアが恐喝する4万ドルから5万ドルという額は微妙な数字であるという。恐喝の額としては意外と少ない、英国の一番大きなサイバー・カジノBetfair.comは土日の売り上げが1億6千万ドルにも上る、恐喝メールでサーバーが麻痺して、売上げと顧客の信用を失うより、4万ドル払った方がずっと被害が少ないからと、殆どのサイバー・カジノが恐喝に応じているという。 「仮想現実の犯罪」 英国ではブックメーカーによるインターネット上の賭博が合法であるのに対して、米国ではインターネット上の賭博は禁止されているので、米国のサイバー・カジノはタックス・ヘブンのコスタリカとか西インド諸島のアンティグア等に拠点を置いて、運営されていることもあり、FBIには助けを求められない弱味もある。 日本では賭博に対する取締が厳しいのでインターネット上でカジノを主催する事が出来ない。従って海外のサイバー・マフィアの餌食にならずに済んでいる。インターネットはバーチャル・リアリティ(仮想現実)の世界であり、バーチャル・リアリティのサイバー・カジノが、インターネット上のサイバー・マフィアに恐喝されると云うバーチャル・リアリティの世界の中でのみ行われた新しいタイプの犯罪であると云われている。 (終) |